国際線形加速器学会 LINAC2022 で優秀学生発表賞を受賞
素粒子ミュオンの性質を調べる研究グループは、異常磁気能率 (g-2) と電気双極子能率 (EDM) の精密測定のために必要な高エネルギーで高品質のミュオンビームをつくる実験を行なっています。この実験のコア技術の一つが、前例のないミュオン専用の線型加速器です。このたび、茨城大学大学院生の中沢 雄河 氏がミュオン専用の交差櫛型ドリフトチューブ線型加速器 (IH-DTL) の実証研究について国際線形加速器学会LINAC2022でポスター発表を行い、優秀学生発表賞を受賞しました[*]。
IH-DTLはドリフトチューブ線型加速器 (DTL) の一種で、特に低速度の粒子の加速に優れた性能を発揮することから、アルバレ型DTLがJ-PARC加速器の初段部でも採用されています。IH-DTLはアルバレ型よりも高い効率を持つDTLで、さらに粒子加速のための高周波電磁場によってビーム収束も行う手法 (APF) を取り入れることで、低電流ビームに対してさらに高い性能を実現でき、これまでに重粒子線治療用線型加速器で採用されています。しかし、実績のある重イオンと比較して質量が10分の1以下のミュオンの加速は誤差電磁場による影響が大きく、g-2/EDM精密測定に必要な高品質加速が実現できるか未知数でした。そこで中沢 雄河 氏は、ミュオン専用IH-DTLを試作し、電磁場測定や実際にミュオンを加速するのに必要な高周波電力の印加試験を行い、ミュオンの高品質加速の実現に必要なIH-DTL加速空洞技術を実証しました。本成果はLINAC2022の優秀学生発表賞に加え、Physics Review Accelerator and Beamsに掲載予定です。
本技術に立脚してミュオン専用IH-DTL実機を既に製作しており、調整試験を進めています[**]。ミュオン専用線型加速器はIH-DTLを含めて4種類の加速器から構成されており、IH-DTLの後の加速空洞についても実機製作が進んでいます。実験グループでは2027年の実験開始を目指し、ミュオン専用加速器を含めた実験準備を進めています。
[*] https://www.cockcroft.ac.uk/2022/09/07/31st-international-linear-accelerator-conference-linac2022-delivered-in-liverpool/
[**] https://j-parc.jp/c/photo_gallery/2022/03/ih-dtl-1.html
関連サイト
J-PARC 【トピックス】2019.06.11
茨城大学大学院生 中沢雄河さんが「負ミュオニウムイオンの加速実験を成功に導いた負水素イオン源を開発」
http://www.j-parc.jp/c/topics/2019/06/11000271.html