トピックス

2020.01.31

J-PARC News 第177号

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■10年を経て、新しいフェーズへ!齊藤直人J-PARCセンター長年頭挨拶(令和2年元旦)

 日頃より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。令和二年、最初のJ-PARCニュースをお届けするにあたり、一言ご挨拶申し上げます。
 昨年の10周年記念シンポジウムでは、著名な科学者たちと、文化人類学者の中沢新一さんをお招きし、「社会における科学の役割、世界における日本の役割」と題して、パネル討論を行いました。その中で、社会に貢献する科学技術そのものだけでなく、科学的な考え方を伝えていくことの重要性が浮き彫りにされました。人類の知のフロンティアを開拓する学術研究がJ-PARCの柱の一つですが、同時に、気象危機など世界規模で取り組むべき課題に貢献することがますます重要になります。今年から次世代ニュートリノ振動実験の建設が開始されるなど、J-PARCでも更なる大強度化と高度化が始まります。同時に、新型電池材料の開発、固体による冷却原理の開発など、温室効果ガス削減に寄与する技術などの研究開発も、加速して参ります。加えて、科学の魅力と、科学的な考え方の重要性を、より多くの方々に理解していただけるよう、今後も一層の力を入れていくことをお誓いして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

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■新開発の量子線顕微装置でタイヤ用ゴム材料物質の選択的な観測に初成功
 -製品や使用後の製品そのものの評価が可能に 他の材料への利用展開にも期待-(1月23日、プレス発表)

 J-PARC加速器でつくられる中性子は、様々な物質の原子レベルでの構造の観測で活躍しています。このたび、材料内部にある材料を従来よりも格段に簡単に見分けて「選択的に観察」できる「動的核スピン偏極装置」が開発されました。例えば、自動車のタイヤ用ゴムは、数十種類の異なる材料からできており、それぞれの材料がタイヤ内部で階層構造を作っています。このため、タイヤ性能の向上にはタイヤ用ゴムの内部の各材料をそれぞれ分けて観察し、その階層構造の仕組みを明らかにすることが重要です。
 開発した装置は、強磁場・低温環境で観測したい材料の電子を偏極させた後、マイクロ波を使って水素へ偏極移動させ全体を偏極させます(スピンの向きがそろうことを「偏極」という)。この材料に、偏極させた中性子ビームを入射させると、散乱の仕方が変化します。この変化を手掛かりに、材料の見たい部分を選択的に観測できます。この手法により、従来の方法(重水素置換法)で必要であった特別な合成が不要になり「製品そのものの観測」が可能となります。
 本装置は、茨城大学の小泉教授、能田講師らが、J-PARCに建設された茨城県の中性子ビームラインである茨城県材料構造解析装置iMATERIAで中性子小角散乱を行うために開発したもので、今後、様々な材料の観測ニーズに合った産業利用の進展が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2020/01/23000390.html

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■令和元年度 J-PARCセンター安全監査を実施(12月16日、J-PARC)

 12月16日、令和元年度のJ-PARCセンター安全監査が、安全工学、放射線安全を専門とする外部監査委員2名により実施されました。監査では、まず石井哲朗安全統括副センター長がJ-PARCの作業の安全管理、作業責任者・安全主任者制度、安全文化醸成などの安全管理状況について説明し、作業実施状況の現場視察をハドロン実験施設で行いました。続いて、作業の安全管理の一例として、物質・生命科学実験施設(MLF)の中性子標的容器交換作業における作業計画、安全確認、実施結果等について説明しました。その後、J-PARC各施設の責任者からの聴き取りが行われた後に、監査委員から全般にわたった講評があり、特に「人材交代に伴う技術継承の課題、人材育成の必要性」が強調されました。

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■2019年度理研シンポジウム「小型中性子源がインフラ・ものづくり現場の非破壊評価分析を変える」
 ~大型、小型の連携で挑む元素分析、組織・構造解析の革新~開催(12月19日、理化学研究所)

 12月19日、2019年度の理研シンポジウムがJ-PARCセンターなどとの共催で開催され、約180名が参加しました。理研では、ものづくり現場やインフラ現場で利用可能なコンパクトな中性子源の開発と、その線源の特徴を生かした中性子計測技術の高度化開発を進めており、2013年からは理研小型中性子源システムRANSが稼働、そして今年度、さらに小型化した2号機「RANS-Ⅱ」の運転を開始しました。シンポジウムでは、RANSによる中性子線利用の成果、コンパクトな中性子源システムの実用化に向けた講演がポスターを含めて28件ありました。池田裕二郎 前J-PARCセンター長(現在 理研 特別顧問)は、RANSの冷中性子モデレータの開発を含む高性能化について講演しました。特に、冷中性子源モデレータの最適化研究ではJ-PARCの関連部署との連携により実効的に高性能化に結びついた成果が紹介されました。

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■令和元年度 J-PARC非常事態総合訓練を実施 (1月9日、MLF)

 1月9日に、J-PARCセンターはJ-PARC放射線障害予防規定に基づく令和元年度の非常事態総合訓練を実施しました。訓練は、MLFの利用運転中に施設から放射性物質が異常に放出された想定で行われました。MLF運転制御室で、計器指示値の異変に気付いた職員による施設管理責任者など各所への通報に始まり、中性子生成標的容器が置かれている放射化機器取扱室で、標的容器水銀に気泡を生成するヘリウムガス系統で漏洩が発生したことを確認しました。事故現場指揮所と現地対策本部の連携、現場確認、人命安全の確保、模擬プレス発表など、一連の訓練が進みました。

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■第29回 J-PARC PAC開催(1月16~18日、J-PARC)

 1月16日からの3日間、J-PARC研究棟において、原子核素粒子共同利用実験審査委員会(J-PARC PAC)を、委員16名(海外9名)の出席のもと開催しました。委員会は、J-PARCのメインリング加速器(MR)を主に用いて行う原子核・素粒子物理の研究計画の進め方に関する助言、大学共同利用実験として申請された新規の実験課題の審査を行いました。冒頭、齊藤直人J-PARCセンター長が開催挨拶とJ-PARCの現状報告を行い、内藤富士雄 加速器副ディビジョン長が加速器の現状と今後の運転計画について報告、また、KEK素粒子原子核研究所の徳宿克夫所長が今回のPACで審査する内容について説明しました。委員会のオープンセッションにはJ-PARCで実験に携わる多数の研究者が参加し、ハドロン実験施設とニュートリノ実験施設の現状と今後の計画、現在進められている実験の進捗報告とともに、新規に申請された課題の説明など合計24件の報告があり、委員会からの助言と実験課題提案に対する審査結果は、議事録としてまとめられ公開されます。

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■J-PARCハローサイエンス「泡沫(うたかた)の儚さの瞬間を中性子でとらえる」
 (12月20日、東海村産業・情報プラザ「アイヴィル」)

 12月のハローサイエンスは、シャンプーの泡(泡沫)の機能をMLFの中性子を使って観察した研究成果について、茨城大学理工学研究科の小泉智教授を講師に招いてお話しいただきました。先生は、まず日本における物質構造解析にまつわる結晶学研究の日本の歴史、量子線の波の干渉観察による物質構造の解析原理、また、茨城県の電子線、放射光X線、中性子線による量子線科学の現状などについて詳しく説明しました。そして、今回の実験は、メーカーの製品開発研究に茨城県構造解析装置iMATERIAを使い、奈良女子大学などと共同で実施され、泡(膜)の持続性などはシャンプーに含まれる界面活性剤が大きく関ることを突き止めることができたと結びました。講演は、最先端研究に利用されている中性子を私たちが毎日のように使う生活用品の開発にも活用した一例を紹介したものでした。

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■ご視察者など

 1月23日 Nature Reviews Physics 編集部
 1月24日 原子力国民会議 福井支部

 

 

■加速器運転計画

 2月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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