トピックス

2026.07.31

J-PARC News 第255号

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■ 受賞

 2026年日本アイソトープ協会奨励賞

 名古屋大学大学院理学研究科 助教・ J-PARCセンター 物質・生命科学ディビジョン 基盤技術開発セクション外来研究員の奥平琢也氏が、2026年日本アイソトープ協会奨励賞を受賞しました。
 奥平氏は、中性子偏極デバイス : 3Heスピンフィルタを用いたスピン偏極中性子実験を推進しており、J-PARCにて高性能な3Heスピンフィルタの開発に成功しました。これをJ-PARCの様々な中性子ビームラインで実用化しました。特に偏極熱外中性子ビームを原子核の中性子吸収反応における時間反転対称性の破れの基礎研究に応用しました。J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF) BL04 「ANNRI」における実験で、原子核が偏極熱外中性子を吸収した後に放出されるγ線に角度分布が生じることを発見しました。さらに、BL22 「螺鈿(RADEN)」にて、超伝導磁石と希釈冷凍機を用いて139La原子核標的を偏極し、偏極原子核と偏極熱外中性子の間の断面積のスピン依存性の測定にも成功しました。これらを原子核理論モデルと比較することにより、139Laの中性子吸収反応で時間反転対称性の破れが極めて大きく増幅されうることを明らかにしました。
 表彰式は7月10日に日本科学未来館にて行われました。

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■ プレス発表

(1)金属らせん磁性体の巻き方制御を直接実証
 -新型磁気メモリ開発に向け重要な基盤を確立-(6月19日) 

 物質中の原子は、それぞれ磁気モーメントと呼ばれる微小な磁石(原子磁石)の性質を持っています。らせん磁性体では、隣接する磁気モーメントの向きが少しずつ回転することで、物質全体としてらせん状の磁気構造を形成します。このらせんの巻き方(キラリティー:右巻き・左巻き)は、電流と磁場によって制御できることがこれまでに示唆されていました。しかし、巻き方制御の決定的な証明はなされていませんでした。
 本研究グループは、J-PARC MLFのBL15「大観」を用いて、スピン偏極中性子散乱実験を行いました。その結果、らせん磁性の巻き方を直接観測するとともに、試料体積全体の90%以上(最大99%)という高い割合で巻き方を制御できることを明らかにしました。
 これにより、らせん磁性体を用いた次世代磁気メモリの実現に向けた重要な基盤技術となることが期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/06/19001833.html

 

 

(2)トポロジカル磁性体の新たな設計指針を確立
 -ディラック電子を持つ正方格子物質でホモロガス系列を発見-(7月2日) 

 トポロジカル量子物質は、磁性や超伝導などの量子機能に加えて、トポロジーによって保護された電子状態を持つため外乱に対して極めて安定した性質を示すことから、次世代スピントロニクスや量子計算への応用が期待されています。しかし、高温超伝導体などの層状酸化物とは異なり、層数制御による物性設計指針は確立されていませんでした。
 本研究グループは、トポロジカルな電子状態を示す正方格子磁性体において、初めて層数の制御が可能なホモロガス系列を実現しました。研究用原子炉JRR-3とJ-PARC MLFのBL18「千手」を用いた中性子散乱実験と、理論計算や強磁場測定の結果により、層数を変えることで磁性とトポロジカル電子状態を同時に制御できることを実証しました。
 この成果は、次世代量子技術を支える新材料開発を加速させるとともに、新たな量子現象や革新的な量子機能の発見につながることが期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/07/02001836.html

 

 

■ 中高生11名が世界最高強度のJ-PARCミュオン施設でビーム実験を実施(6月20〜21日)

 加速キッチン合同会社の探求支援を受けている中高生が、MLFのミュオンD1エリアで、ミュオンビーム実験を行いました。中高生によるJ-PARCでのビーム実験は、昨年に続き2回目で、参加者、テーマ共に昨年より規模を拡大して行われました。
 加速キッチンでは、中高生に簡易的な検出器を提供し、自宅での放射線・宇宙線観測を300名以上支援してきました。今般、ミュオンビーム実験の提案を募り、採択された5課題11名がJ-PARCで実験に臨みました。中高生はこれからデータ解析を行い、得られた成果を学会や論文などで公表する予定です。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/07/03001838.html
※ミュー粒子のことを「ミュオン」または「ミューオン」と表す。

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■ 令和8年度 中性子産業利用報告会を開催(7月16〜17日、 秋葉原コンベンションホールおよびオンライン配信)

 本報告会は産業界からの要望に応えるため、中性子・ミュオンを用いた最先端の測定技術、研究成果を紹介し、産業界の「見たいもの」とのマッチングを図ることに重点を置いています。毎年、少しずつ参加者が増え、今年度は、現地会場に284名、オンライン接続で149名が参加しました。
 特別講演として、16日は「量子ビームが支えるモノづくり -トヨタグループにおける産業利用60年の歩み-」と題し、株式会社豊田中央研究所代表取締役 所長兼CRO 志満津孝氏が、17日は「水素科学技術の将来展望-材料開発からAI活用まで-」と題し、東北大学材料科学高等研究所所長 金属材料研究所教授 折茂慎一氏が登壇しました。このほか、一般講演、ポスターセッションなどが行われ、活発な議論が交わされました。

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■ GSAサイエンスセミナー(7月18~19日、岐阜県飛騨市)

 GSA(ジオスペースアドベンチャー)は、神岡鉱山の跡地を探検し、スーパーカミオカンデなどの研究施設を見学するイベントです。約800人の見学者が実際の坑道の中に入り、一番奥にあるスーパーカミオカンデの巨大水槽の上に立ち、ここで感知するニュートリノやJ-PARCとの関係について説明を受けました。
 18日、GSA第30回開催記念セミナーは、「科学を物語る~世界最大級の地下実験で何が行われているのか~」と題し、J-PARCの小林センター長、猿橋賞受賞者の東北大学教授 市川温子氏、直木賞作家の伊予原新氏が登壇し、科学ライターの荒舩良孝氏の進行で行われました。セミナーでは、科学の魅力や面白さ、研究者の素顔について、語り合いました。18日と19日には、小林センター長が「世界最強陽子加速器~J-PARCでさぐる宇宙と物質の起源~」と題するテーマで講演を行いました。

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■ J-PARCハローサイエンス「素粒子生成標的~極限の設計技術~」(6月26日)

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 素粒子の一つであるミュオンを生成し、世界最高水準の研究を支えている「生成標的」について、物質・生命科学ディビジョンの砂川光氏が紹介しました。
 世界トップクラスの強度を誇るJ-PARCの陽子ビームを受け止め、安定的に大量のミュオンを生成する標的には、材料選びから部材の設置、冷却や回転機構に至るまで、様々な工夫と高度な技術が使われています。標的の材料には、高い耐熱性と耐熱衝撃性を備えたグラファイトを採用し、さらに標的の形状をドーナツ状にして回転させることで、大強度のビームが常に同じ場所に当たり続けることを避け、熱の集中や損傷を抑えています。
 講演では、現在の生成標的の開発に至るまでに直面した課題や、それらを乗り越える技術的な工夫についても紹介されました。参加者からは材料の選定や保守管理に関する質問などが次々と寄せられ、生成標的への関心の高さがうかがえました。

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■ 出張授業

(1)KIPP中目黒〜中目黒小学校子ども教室〜(7月4日) 

 中目黒小学校子ども教室で「世界最小?不思議なコマを作って、素粒子の世界に触れよう」と題し、小学1年生から6年生の13人を対象に、加速器第七セクションの大谷将士氏がコマを使った講座を開催しました。
 初めにJ-PARCの紹介と素粒子についての説明を行った後、地球ゴマを回したり、コマを工作したりしました。自分で作ったコマの重心を変えることで、歳差運動の回転方向に変化が生じることを観察し、歳差運動と素粒子が持つスピンの性質が似ていることを学びました。

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(2)日立市立油縄子小学校(7月7日)

 「宇宙は何からできているのだろう~光」をテーマに素粒子原子核ディビジョンの伊多波辰徳氏が講師を務めました。本出張講座は、日立シビックセンターより依頼を受け、油縄子小学校3年生の親子学習会として開催されたもので、30名の児童とその保護者が参加しました。
 「波にはどんな性質があるのかな?」「光は何色なのかな?」など、親子で一緒に波や量子、光について楽しく学びました。波や光に関するクイズでは、子どもたちが積極的に意見を出し合い、その答えを実験で確かめると、驚きの声が上がる場面も見られました。
 最後には、光の性質を利用したまんげきょう作りにも挑戦し、工作を楽しみながら光の不思議を体験しました。

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(3)香川高等専門学校高松キャンパス(7月8日)

  香川高等専門学校において、「ミクロの世界を見る加速器の仕組み」と題する出張講義を加速器ディビジョンの大谷将士氏が行いました。
 加速器の原理や医療応用などの利用例を紹介、ミューオンの利用や、その加速技術を用いた素粒子研究など、最新の技術開発・研究の展開について紹介しました。
講義後の質疑応答では、「J-PARCがなぜ世界最大級のビームパワーを実現できているのか」といった技術的な質問から、「KEKで活躍する高専出身者はどのような仕事をしているのか」といったキャリアに関する質問まで、多岐にわたる質問が寄せられました。

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■ ミュオンにコーフンクラブ (6月28日、東海村歴史と未来の交流館)

 6月28日、ダブル台風直撃かと心配されましたが、何とか台風が通過してくれて、第2回のミュオンにコーフンクラブの活動が行われました。茨城大田中氏による前回の発掘の心得を受けて、今回は「模擬」発掘体験が行われました。
 5班に分かれた11名の子供たちは、「発掘調査体験キット」を使って、発掘体験に取り掛かりました。体験キットは、茨城大大学院生のみなさんが前日夜までかかって作ってくれたもので、縄文時代中期、 縄文時代晩期、弥生時代、 古墳時代、奈良・平安時代の5種類の遺構をモデルに、草が生えている表層、耕作土、遺物が入っている黒い土層の3層のパネルが順番に重なりパズルのように組み合わせて構成されている力作です。子供たちは遺物を動かさないように気を付けながら、スコップに見立てた小さなスプーンで順番に剥がすように土(パネル)を掘っていく体験をしました。
 その後、建築作業方法の一種『やり方』測量の手順を田中氏から教えてもらい、掘り出された土器などの位置を手元の方眼紙に正確に写し取る作業をしました。模型に合わせて張られた糸を頼りに、子供たちは1/2の縮尺で方眼紙に位置を記載します。ものさしで測った距離を半分にして方眼紙に転記する作業には悪戦苦闘していましたが、記録することの大切さと大変さの両方を体験できたようでした。

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■ ご視察者など

 7月28日 小林 茂樹 文部科学副大臣 他

 

 

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J-PARCさんぽ道 71 -真夏の重水素化実験室「Dラボ」-

 J-PARCの実験施設というと、多くの人は、巨大な加速器や利用実験施設などの施設を思い浮かべるかと思います。しかし、J-PARCには、規模はそんなに大きくなくても、ここにしかない実験室があります。そのひとつがJ-PARC研究棟にある「Dラボ(Deuteration Laboratory)」です。
 大学や製薬会社の一室にも見えるこの部屋は、中性子を照射するための生物系試料を作る部屋です。中性子はX線とは異なり、軽い元素の識別を得意としています。そのため、試料の中に含まれる水素と重水素の違いを区別でき、観察したい部分を重水素化することで、物質の構造や性質をより詳細に解明することができるのです。ここでは、重水素化された生物系試料を作るために、遺伝子組換えされた微生物を、重水中で育てています。様々な操作を経て生成された高純度でかつ高品質な重水素化試料は、「大観」「DNA」「千手」「iBIX」などの中性子ビームラインに持ち込まれ、大強度の中性子に照射されます。
 Dラボの室温は、試料の精製や機器の性能維持のため、年間を通して20℃前後に保たれています。屋外からDラボに入ると、鍾乳洞に来たように感じます。その冷気をじかにお伝えすることはできませんが、色とりどりの試薬が並んでいる写真をご覧いただくことで、皆様に少しでも涼しさを感じていただければ幸いです。

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