J-PARC News 第254号
■ 受賞
第16回 日本金属学会 まてりあ論文賞
物質・生命科学ディビジョンのハルヨ ステファヌス氏が共著者として参画した論文が、第16回日本金属学会まてりあ論文賞を受賞しました。
本賞は、日本金属学会会報「まてりあ」に掲載された論文の中から、学術的、または科学技術的に優秀であり、金属および周辺材料分野の進歩発展に顕著な貢献をした論文に贈られるものです。
受賞となったのは、2024年1月号に掲載された解説論文「機能マルチモーダル制御による高強度と高延性を兼ね備える軽金属展伸材設計」です。本論文では、ナノスケール動的挙動の理解に基づき、高強度と高延性を両立する軽金属展伸材の力学特性が発現する仕組みについて解説しています。
■ プレス発表
地球の外核に大量の水素が存在する可能性
-世界初、液体鉄中の水素量をその場観察で直接決定-(5月13日)
主に鉄からなる地球の中心核の密度は、その高温高圧条件下に置かれた純粋な鉄よりも小さいことが知られています。この密度不足の原因として、核の中に水素が混ざっているためと考えられています。これは、水素が宇宙でもっとも多く存在し、また高い圧力のもとでは鉄に溶け込みやすくなる性質を持つためです。しかし外核を構成する液体鉄中の水素をこのような環境下で観測する方法がなく、これまでどのくらいの水素が溶けうるのか謎でした。
今回の研究では、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の超高圧中性子回折装置「PLANET」において、中性子イメージングという手法を用い、水素が溶け込んだ液体鉄(FeHx)を1127℃、圧力3万4千気圧という高温・高圧条件下で観察し、液体鉄中の水素の含有量を世界で初めて直接的に決定することに成功しました。
その結果、液体鉄には 重量濃度で0.17 %の水素が溶け込むことが明らかになりました。このことから、外核には現在の海洋 (H₂O)を構成する水素(H)の70〜85倍もの量が含まれうることが分かりました。これは、外核の密度不足の半分以上を水素の溶解で説明できることを意味します。
本研究では、地球の外核の問題に対し、直接的な実験方法で制約を与えることに成功しました。この成果は、地球内部の水素循環の理解や他の惑星の核形成プロセスの理解など、幅広い分野へ影響を与えるものです。今後は、より高い圧力下での決定や、水素以外の軽元素との共存した時の溶解量の違いに興味が持たれます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/05/13001802.html
■ J-PARC安全の日(5月22日)
2013年5月23日、J-PARCのハドロン施設で放射性物質の漏えい事故が起こり、地元の皆様をはじめとする関係者に多大なご迷惑とご心配をおかけしました。J-PARCでは毎年この時期に「J-PARC安全の日」を設け、安全について再考する機会としています。
今年度の開催は通算13回目となり、ハイブリッド方式により379名が参加しました。午前中の「安全情報交換会」では、各セクションから放射線安全に関して取り組んだ様々な事例が紹介されました。午後の「安全文化醸成研修会」では、まずJ-PARC安全表彰が行われ、ハドロンセクション に良好事例最多賞が、長年の安全に対する貢献をした3名に安全貢献賞が授与されました。続いて、京都大学防災研究所の竹見哲也教授を講師に迎え、「豪雨・竜巻などの極端事象の発生の仕組みとその備え」と題する講演が行われました。豪雨・竜巻・台風・雷などの極端気象の発生メカニズムや近年の特徴について、全地球規模から局所的な地域に至る解説がありました。さらに、災害のリスクは都市の再開発などの土地利用の変化によっても刻々と変化するため、「これまで大丈夫だったから今後も大丈夫」と過信せず、常に災害対策のアップデートが必要とのアドバイスをいただきました。最後に「J-PARC放射性物質漏えい事故」の記録映画を視聴し、当時の記憶を風化させない決意をしました。
J-PARCでは今後もこの行事を毎年続け、二度とこのような事故を起こさないよう、安全を最優先に研究活動を行う所存です。
■ J-PARCハローサイエンス「ビームと相対性理論」(5月29日)
ハローサイエンスの内容を4コマ漫画でお届けします。
5月のハローサイエンスでは、素粒子原子核ディビジョンの澤田 真也氏が、アインシュタインが提唱した相対性理論はJ-PARCの研究を進めるうえでも不可欠なものであることを紹介しました。
J-PARCでは、光に近い速さまで加速した陽子ビームや発生する2次粒子ビームを用いて、原子核や物質の基本構造を探る研究を行っています。特に寿命を持つ2次粒子を使って実験を進めるには、相対性理論は非常に重要な役割を果たしているのです。
今回、参加者は自身のスマートフォンの電卓や関数電卓を用いて、相対性理論がJ-PARCの実験にどのように現れるかを実際に計算で導きました。難しく思われがちな相対性理論やJ-PARCの研究内容も、具体的な数値としてスマートフォン上に現れることで理解が深まり、より身近に感じることができました。
YouTube J-PARCチャンネルで、今までのハローサイエンスの動画も配信中!!
https://youtube.com/playlist?list=PLoJacoLqZ0cXiowgQmKybiPLv9rkPTa0h&si=s9-44k_eLdrLOdMR
■ 出張授業
(1)翰林日本語学院(5月27日、神奈川県青葉区)
J-PARCセンターの小松原健副センター長による、「霧箱」をテーマとした科学実験教室を翰林日本語学院で実施しました。
当日は、同学院で日本語を学ぶ2年生が参加し、グループごとに「霧箱」の製作に挑戦しました。普段の語学学習とは一味違う科学実験に、学生たちは興味津々。目には見えないつぶ(粒子)が描き出す一瞬の軌跡を、真剣な表情で観察していました。
霧箱の中に白い筋(軌跡)が現れるたびに、教室からは歓声が上がりました。実験を通してJ-PARCで行っている研究への理解を深めるだけでなく、グループで協力しながら「日本語で熱心にコミュニケーションを取り合う姿」も多く見られ、学生たちにとって学びの幅を広げる貴重な機会となりました。
(2)日立市立成沢小学校(6月2日)
加速器ディビジョンの神谷潤一郎氏が「見えない真空をみてみよう」と題する講話と実験教室を日立市立成沢小学校にて行いました。
4年生28名は、マシュマロ、風船などを真空にするとどうなるのかを目の前の実験から学習しました。真空にすると、マシュマロや風船が膨らむ様子を児童達は興味深そうに観察していました。マグデブルクの半球実験や透明な筒の中を真空にすると、落ちる羽根とコインはどうなる?など様々な実験を行いました。最後に真空砲の実験から、J-PARCで行っている粒子の加速には真空が大切な役割を果たしているという説明を受けました。
(3)白鴎大学足利中学校(6月6日、栃木県足利市)
加速器ディビジョンの大谷将士氏が、「ミクロの世界を見る加速器の仕組み ~素粒子現象から巨大構造物まで透視するミューオン※加速技術~」と題した講演を行いました。
加速器の原理や医療応用などの利用例を紹介した後、ミューオンの性質や、ミューオン加速の方法、さらにこの加速を用いた素粒子研究など、最新の技術開発と研究の展開について説明をしました。また、現在、大谷氏が高等専門学校と連携して進めている、小型加速器の製作を通じた加速器技術者育成活動についても紹介がありました。アンケートでは、「多段階加速における高電圧制御の方法についてもっと詳しく聞いてみたい」といった感想が寄せられるなど、生徒たちは加速器技術に強い関心を示していました。
※ミュー粒子のことを「ミュオン」または「ミューオン」と表す。
■ ミュオンにコーフンクラブ 遺跡出土品の取り扱い方と発掘講座
(5月31日、東海村歴史と未来の交流館)
5月31日、2026年度第1回のミュオンにコーフンクラブの活動が行われました。4年目を迎えたこのプロジェクトは、いよいよ今年は周溝の発掘作業に入ります。このことを踏まえて、今回は学芸員中泉氏、林氏の発掘作業の心得と茨城大学田中氏による発掘講座が行われました.
まず学芸員の中泉氏、林氏が遺跡出土品の取り扱い方をトーク形式でレクチャー。出土土器(模造品)を片手で時計をしたまま扱う林氏に参加者の子供達から間違い探しをしてもらい、本番でどんなことをしてはいけないかを考えてもらいました。
その後、本物!の縄文式土器と埴輪が登場。参加者のみなさんは、まず色や形の違いを観察したあと、実際に触れてみました。続いて、持ち上げて箱から出し、手前にそっと置く作業をしてもらいました。前半で学んだ出土品の取り扱い方に注意しながら、みんな慎重に扱っていました。
後半は茨城大学の田中氏から「発掘調査はみんなの宝物を掘るということ」というテーマで、発掘調査ではどんなことに気をつけるべきかについてのお話を聞いて皆で考えました。最後は「ミュオンにコーフン!」の掛け声で締めくくりました。
J-PARCさんぽ道 71 -さわやかな高原リゾートでセンター長が出張授業-
福島県の裏磐梯は、火山と森と湖に囲まれた日本有数のリゾート地です。スポーツが好きな小林センター長は、スキーやハイキングでこの地を数十回も訪れており、地元にたくさんの知り合いがいます。その皆様のご要望により、5月30日にパン屋工房「ささき亭」で出張授業が行われました。J-PARCの出張授業は、学校や科学館などではよく開催していますが、高原リゾートでは初めてです。当初、人が集まるか不安でしたが、当日は満席の中での講演となりました。会場はログハウス風の建物の一番奥の高い天井をもつ空間で、大きな窓を開けると新緑の木々を通してさわやかな風が吹いてきます。参加者は思い思いの席につき、なごやかな雰囲気に包まれながら、宇宙の謎、J-PARCの特徴や研究成果などを聴いていました。
裏磐梯は標高が800mあり、近くに大きな街がないので、天体観察として絶好の場所です。参加者から、次回は望遠鏡で星空を眺めながら、ニュートリノをはじめとする最先端の
研究の紹介と組み合わせて、宇宙を紐解くような企画ができないか、またこのような出張授業をシリーズ化できないかという提案がありました。
