J-PARC News 第245号
■ J-PARC・原子力科学研究所 施設公開2025-科学で拓く、明日の世界-開催(8月23日)
今年の夏は特に暑く、施設公開開催日も例外ではありませんでした。今回の施設公開は、原子力科学研究所と合同で開催し、1,648名の皆様にご来場いただきました。暑い中、足を運んでいただいた多くの皆様に、この場をお借りしてお礼を申し上げます。
J-PARCエリアでは、加速器施設や実験施設を公開するとともに、J-PARCハローサイエンスを開催しました。また、MLF特別展示「『古の知』と『現代の知』“日本刀×MLF×自動車”」を始め、多くの展示・工作コーナーなどを設けました。
来年度以降の施設公開について、皆様からいただいた貴重なアンケート結果を勘案し、ご来場の皆様のご期待に極力添えるよう、検討を重ねる所存です。来年度もこの場で大勢の皆様とお会いできることを楽しみにしています。

■ 受賞
2024年度 日本原子力学会 論文賞を受賞(9月11日、北九州市)
加速器ディビジョンの山本風海氏、金正倫計副センター長、業務・運営支援ディビジョンの林直樹氏の3名が、日本原子力学会 2025年度秋の大会にて、2024年度 日本原子力学会論文賞を受賞しました。論文名は「Design and actual performance of J-PARC 3 GeV rapid cycling synchrotron for high-intensity operation」で、3GeVシンクロトロンの1MW出力のための設計と、性能向上に向けた改良等に関してまとめたものです。
J-PARCにおける所期性能である1MWの陽子ビームを安全かつ安定的にMLFおよびMRへ供給することで最先端の研究活動を支えた実績が、顕著な成果として認められました。

■ プレス発表
J-PARC加速器、遅い取り出し運転でビーム強度世界記録を達成
〜 「超原子核」の精密測定など素粒子原子核研究の強力な原動力に 〜(9月11日)
J-PARCのMRからハドロン実験施設へのビームの取り出しは、ハドロン実験施設で発生する二次粒子を効率よく実験に用いるために、加速した陽子を約2秒かけてゆっくり取り出す「遅い取り出し」という手法が取られます。
しかし、遅い取り出しでは、静電セプタム装置のセプタムでビームを削り取り徐々にビームを取り出す際、ビームロスが発生します。それを極力減らすため、極薄の静電セプタムの開発を行いました。 その上で、取り出し中にビームの軌道を変えるダイナミックバンプを導入した結果、取り出し効率99.5%を達成しました。さらに散乱体を静電セプタムの上流に設置することで、取り出し効率は99.65%に向上しています。
遅い取り出しにおけるもう一つの重要な課題は、遅い取り出し時間中のビーム強度を一様に保つことです。そこで、ビームの時間構造を整形しスパイク構造を低減させるための「リアルタイムスピル制御」、横方向の高周波電場をビームに与える「横方向RF」という手法を導入することによりビーム強度の一様性を達成しました。
また、高い取り出し効率を維持しながらビーム強度を上げる取り組みの中で、加速器中の周回ビームを連続的にする「デバンチ」と呼ばれるビーム取り出し直前に行う操作によってビームが不安定になり、ビームロスが発生する問題に直面しました。このビーム不安定性を抑制する工夫を行うことにより、ビーム強度を徐々に上げることに成功してきました。
こうした様々な調整を経て、4月30日から、加速サイクル当たりの陽子数81兆個というビーム強度による実験が可能となりました。これは米国ブルックヘブン国立研究所が持つ記録を上回る、遅い取り出しによる陽子ビーム強度の世界記録となります。今後は現在までに得られた知見と提案されている新しい手法による更なるビーム強度増強を目指します。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2025/09/11001611.html

■ J-PARC出張講座
日立市立仲町小学校(9月9日)
ハドロンセクションの伊多波辰徳氏と澤田真也氏を講師に迎え、3年生、4年生合わせて27名を対象に「波と粒のはなし 宇宙は何からできているのだろう〜光」と題した科学教室が開かれました。
伊多波氏が児童への質問も交えながら講演を行い、波や光の性質について学んだ後、澤田氏とともに光のまんげきょう作りを行いました。自作のまんげきょうを光源に向けた際浮かび上がる虹色を見て、歓声があがっていました。

■ ご視察者など
9月22日 文部科学省 福井大臣官房審議官
■ 加速器運転計画
10月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

J-PARCさんぽ道 62 -J-PARCが贈る体験-
幼少期の体験とその後の体と心の成長との関係が、近年話題となっています。休みの日に海や山に出かけたり、放課後に友達と公園で遊んだりした体験が、学校で学んだ「学力」とともに、将来の人間形成に大変重要な役割を果たしているというのです。
インターネットの普及により、私たちには情報が瞬時に入り、検索すれば簡単に何らかの回答を得ることはできます。しかし、それらは私たちが受け取る情報のすべてではなく、私たちの頭の中にインプットされる知識の一部でしかありません。
施設公開では、皆様が加速器施設や実験施設の中を歩いてその大きさを実感され、様々な装置や展示を見て触れてその複雑さを改めて感じられた方も多いかと思います。日本刀の展示では、光の当たり方によって静かに揺らめく刃文に見入った方もいらっしゃったはずです。出張授業では、子どもたちが指先を器用に使って光のまんげきょうを作りました。ミュオンにコーフンクラブでは、何人もの小中高生が協力してひとつのパネルの上に何百箇所もの配線をし、大掛かりな検出器を完成させました。講演会やJ-PARCハローサイエンスでは現場の研究者と、皆様の興味や疑問を共有する場を作っています。
体験活動には社会を生き抜く力として必要となる基礎的な能力を養うという効果があります。コミュニケーション能力や自立心、主体性、協調性、チャレンジ精神、責任感、創造力、変化に対応する力、異なる他者と協働したりする能力等を育むためには様々な体験活動は不可欠であると言われています。
J-PARCが行う広報活動は、多くの皆様に、J-PARCで行っている研究を始め、科学に対して興味を持っていただくことを主眼としています。しかしながら、それだけでなく、J-PARCが贈る体験を通して、将来を担う皆様にも、微力ながらも何らかのお役に立てればと思っています。
