トピックス

2024.12.20

J-PARC News 第236号

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■ 受賞

 第19回(2025年)日本物理学会領域10若手奨励賞 受賞

 物質・生命科学ディビジョン ミュオンセクションの中村惇平氏が第19回日本物理学会領域10若手奨励賞を受賞しました。優れた研究内容はもちろんのこと、研究者としての将来性そして今後の日本物理学会の活性化に期待が込められています。 領域10とはX線・粒子線、ナノ構造、フォノンなどの構造物性分野であり、中村氏は「μSR実験による層状カルコゲナイド物質の研究」という題目の研究を行いました。次回の春の大会にて受賞記念の講演が予定されています。

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■ プレス発表

(1)フッ素のチカラで進化する金属の抽出技術
 - 効率と安全性を両立した新たな抽出法の開発で持続可能な社会の実現に貢献 -(11月7日)

 低温で使用される機器の安全性や性能を高めるためには、低温でも十分な強度と延性を持つ材料が必要です。本研究では、一般的な304ステンレス鋼に対し、圧延と熱処理という一般的なプロセスによって結晶粒超微細化(1ミクロン以下)を行い、超微細粒304ステンレス鋼(UFG304)を作製しました。このUFG304の低温変形メカニズムについて、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の工学材料研究用中性子回折装置「TAKUMI」を利用した中性子回折とデジタル画像相関法によって調べました。その結果、変形温度の低下に伴い、結晶構造の変化と結晶欠陥の導入・移動といった複数の現象が段階的に起こり、UFG304に優れた強度と延性をもたらしていることが明らかになりました。
 本研究結果は、他の金属材料においても一般的な金属加工設備を用いた結晶粒超微細化によって、力学的特性を大幅に向上させる可能性を示しています。これにより、優れた低温用構造材料の開発が期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2024/11/07001415.html

 

(2)パーコレーション理論を新規量子磁性体で初実証 新しい"静的短距離磁気秩序"を発見
 - 次世代磁気デバイスへの活用に期待 -(11月28日)

 自然界における様々な現象は、物質の相転移と呼ばれる状態の変化が基礎となっています。本研究では、カゴメ格子の新規量子磁性体(Cu4(OH)6Cl2)を合成し、これまで観測されていなかった特異な静的短距離秩序を発見しました。また、数学的なモデルのパーコレーション理論の予測と一致する磁気転移を実証することにも成功しました。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2024/11/28001425.html

 

(3)生体内の酸化還元反応における"電子の運び屋"役のタンパク質
 エネルギー獲得のための生物共通の電位制御の仕組みを解明
 -水素原子1つが司る"ナノスイッチ機構"の発見 -(12月2日)

 J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)内にある茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)で、中性子を用い、水素原子を含めたフェレドキシンの精密な立体構造を明らかにすることに成功しました。さらに、鉄硫黄クラスターの電位は、水素原子一つの有無によって劇的に変化する“ナノスイッチ”機構があることを初めて明らかにし、その機構がさまざまな生物において共通であることを示しました。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2024/12/02001426.html

 

 

■ J-PARCハローサイエンス「石を調べて地球を知る~地下6371kmに広がる世界」(11月29日)

 物質・生命科学ディビジョンの佐野亜沙美氏が、J-PARC MLFの超高圧中性子回折装置 「PLANET」における高温・高圧力実験と中性子回折手法を組み合わせた、世界的にもユニークな研究について講演しました。
 講演の前半では、地球内部の構造や化学組成、温度と圧力についての解説が行われました。これらの情報は地震波の観測や天然の岩石の研究などを組み合わせることにより推定されています。後半では、ビームラインに設置された大型プレスを用いて高温・高圧状態である地球深部の条件を再現し、MLFの大強度中性子を使って行われている研究について紹介を行いました。鉱物やマグマの水素の位置を含む構造を調べることで、地球の物質的性質やその進化について明らかにすることを目的とした研究が進められています。

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■ J-PARCワークショップを開催(10月28~30日)

 J-PARCセンター、材料学会金属ガラス部会、CROSS共催のJ-PARC ワークショップ「1 MWパワーで探れ、非晶質の中の小さな不思議―『自由』と『束縛』の協奏曲―」が開催されました。
 液体やガラスなどの非晶質物質中で、原子は、結晶のように規則正しく並んでいるわけではなく、かといって、ガスのように自由奔放に動いているわけでもなく、緩やかに束縛されています。この「自由」と「束縛」のせめぎあいの中で生じる構造のゆらぎが液体やガラスに特徴的な性質を与えることが最近わかってきました。本ワークショップには、この“小さな不思議”が、今後J-PARCの1 MWのビームで解明されることを期待し、国内の新進気鋭の研究者が集まりました。総勢58名の参加者(1名のオンライン講演者を含む)があり、27件の口頭発表、10件のポスター発表が行われ、熱い議論がなされました。また、会期中、22名の希望者がMLFを見学しました。

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■ J-PARC出張講座

(1)日立市立大みか小学校で出張授業 (11月18日)

 「見えない真空を見てみよう」と題して、J-PARCセンター 加速器ディビジョンの神谷潤一郎氏と諸橋裕子氏が出張授業の講師を務めました。日立シビックセンターが日立市内への小学校向けに企画したものの一環です。5、6年生が、目には見えない「真空(“まこと”の“から”)」を感じたひと時でした。授業が終わると実験装置の周りにはたくさんの児童が集まりました。
「真空状態にすると物の大きさや、形が変わったりして面白かった。」「普段見ることができない真空実験が見られて楽しかった。」との感想や「開発するのも楽しいかもしれない。」と、将来が楽しみになる声も聞かれました。

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(2)九州大学で「パルス中性子を用いた新しい可視化技術」を講演(11月19日)

 九州大学大学院総合理工学府の学生に、中性子利用セクションの甲斐哲也氏が特別講座を開催しました。パルス中性子を利用し、金属の結晶組織構造、元素、温度、磁場の空間的な分布を可視化する技術を解説するとともに、J-PARCで利用可能な大強度パルス中性子源の開発に携わった経験も紹介しました。

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(3)岡山県美作市作東中学校で出張授業 (12月6日)

 岡山県美作市の作東中学校1、2年生およそ50人を対象に、「大きな宇宙のひみつとミクロな世界のひみつと加速器と」をテーマに、J-PARCセンター長 小林隆氏が、出張授業の講師を務めました。
講演の後、普段、目に見えない放射線を可視化する装置作り(霧箱作り)に挑戦しました。生徒から、「科学や理科はあまり興味がなく、好きではなかったけど、今日の授業を通し、少し興味を持ち、好きになりそうです。」「今まで自分が見たことがない不思議なものを見ることが出来ていい体験になりました。」などの感想が寄せられました。

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■ 加速器運転計画

 1月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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J-PARCさんぽ道 53 -見学から学ぶこと-

 J-PARCは対面での広報活動を活発に行っています。最大の行事である施設公開を始め、出張講座、ハローサイエンスなど、様々な手段で外部の皆様との交流を深めています。
 中でも最も多くの皆様と接する機会を持つのが、J-PARCの見学です。コロナ禍が一段落して見学者数は増加傾向にあり、今年4月から11月までで約2400名、今年度中には3000名を超す見込みです。官公庁、企業、大学等の研究者、学生、あるいは純粋にJ-PARCに興味を持った個人の方など、日本全国はもとより、世界各国から来所されます。
 J-PARCのどこに関心を持っていらっしゃるかも千差万別で、質問も多岐にわたっています。研究者からはJ-PARCの専門家でも返答が困難な深堀した質問をいただくことがあるし、企業の方ならJ-PARCの利用に関する質問が多くなります。J-PARCへの就職を検討している学生からはそれとなく職場の雰囲気に関する質問が出ることもあります。
 このような見学者からの質問は、J-PARCへのニーズに気づくヒントにもなります。私たちは、こちらの研究状況を一方的に発信するにとどまらず、これらのニーズを受け止め、今後の研究活動に活かしていきたいと考えています。

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