J-PARC News 第232号
■日本加速器学会で二つの賞を受賞(7月31日~8月3日)
7月31日から8月3日まで山形市で行われた本学会で、以下の賞を受賞しました。
(1) 技術貢献賞
加速器第三セクションのサハ プラナブ氏が受賞しました。本賞は、加速器の建設、運転、利用の高度化、製造技術の開発等に対する寄与が顕著であると認められる技術的貢献に対して授与されるものです。
数値シミュレーションと実際のビームを用いた試験により、J-PARCの加速器の一つであるRCSのビームロスを最小限に抑える研究を進めました。本成果はRCSの1MWでの安定運転や、将来的なMRのビーム強度増強の実現に不可欠になるものと考えられます。
(2)年会賞
加速器第三セクションの小島邦洸氏が受賞しました。本賞は研究活動・研究者生活の初期段階にある、学生や若手研究者を奨励することを目的とし、学会年会において優れた内容の発表に対して授与されるものです。
RCSのビーム損失を低減させる研究から、大強度ビーム運転時にビームロスの少ない条件を見出したことが評価されました。
■プレス発表
(1)水を極限までおしてみた- 超高圧中性子回折実験で水素結合の対称化の観察に成功! -(6月27日)
氷を圧縮していくと、隣り合う酸素原子間にある水素原子が、中心に移動する「水素結合の対称化」を起こすことが古くから知られていました。しかしこれを、水素原子の位置を特定できる中性子を使って直接観測するのは実験的に難しく、高圧中性子科学における最重要課題の一つとなっていました。
本研究チームでは、ダイヤモンドより硬い「ナノ多結晶ダイヤモンド」を用いた高圧セルを開発し、これを用いてJ-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の超高圧中性子回折装置「PLANET」で100GPa(大気圧の百万倍)までの高圧実験を行うことで、氷の水素結合の対称化が約80 GPaで起こることを世界で初めて明らかにしました。
本成果は、氷の物理化学的理解のみならず地球深部や宇宙空間にある氷の状態を推定するのにも役立つと思われます。
詳しくはこちら(J-PARC HP) https://j-parc.jp/c/press-release/2024/06/27001362.html
(2)カイラリティと電気トロイダルモーメントの結合に基づく新しい強誘電性発現機構を提案・実証
- 新しい磁性・導電性強誘電体開発の加速に期待 -(8月8日)
磁性や電気伝導性を併せもつ強誘電体は、新しいデバイスの原理となり得る特異な物性の発現舞台です。研究グループでは強誘電体を結晶対称性の観点から再考し、カイラリティと電気トロイダルモーメントの結合が強誘電性を発現することを発案しました。そしてSrM2V2O8 (M = Ni, Mg, Co) という磁性元素を含む物質群において、MLFの 「SuperHRPD」を用いてらせん鎖の回転の変化を観測し、発案したメカニズムに基づく強誘電性を実証することができました。
本成果は、従来見過ごされてきた組成や結晶構造をもつ物質が、強誘電体になり得る可能性を提示するものです。これにより、磁性強誘電体はもちろん、導電性を併せもつ非従来型の強誘電体の物質開拓も加速されることが期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2024/08/08001384.html
■J-PARCハローサイエンス「検出器周りで活躍する超伝導磁石」(7月26日)
低温セクションの角直幸氏がJ-PARCでの様々な研究施設で使用されている超伝導磁石の原理や特徴について紹介しました。
極低温に冷やすことで電気抵抗がゼロになる超伝導を使うと、強力な電磁石を作ることができます。超伝導磁石は、強力な磁場で粒子を曲げて「加速器で用いる」イメージが強くあるかもしれませんが、J-PARCで行われている実験の様々な部分で活躍し、研究を支えているのです。
例えば中性子寿命測定実験では、強力な磁場をかけることにより、背景事象と本来測定したいβ崩壊を分けることができ、精度の良い測定を行うことができるようになります。
他にもCOMET実験では、100兆回に1回あるかないかの現象を探索するために、用途の違う3つの巨大な超伝導磁石が、ビームを収束させ、目的の粒子を選別し、信号を検出するために用いられています。
■「エコフェスひたち2024」に出展(7月20日、日立シビックセンター等)
多くの子どもたちの夏休み初日に、日立シビックセンター等で実験・体験を通して学べる環境イベント「エコフェスひたち2024」が開催されました。
J-PARCセンターのブースでは、超伝導コースター実演とJ-PARCの紹介を行いました。-200℃近くまで冷やした超伝導体が浮上したままレールに沿ってジェットコースターのように滑走する超伝導コースターは、子どものみならず、大人にも人気です。
また、J-PARCの模型やポスターを展示し、J-PARCが燃料電池の性能向上などに貢献していることなどを紹介しました。
■こども霞が関見学デーで「光のまんげきょうをつくろう」工作教室に参加(8月7、8日)
「こども霞が関見学デー」は、子供たちを対象に各府省庁の業務説明や職場見学等を行うことにより、広く社会を知る体験活動の機会とし、親子のふれあいを深めることを目的とする取組みです。今年は28府省庁等がプログラムを実施しました。文部科学省内の日本原子力研究開発機構のブースでは、光のまんげきょうを作りながら、光は波であることや光の三原色などを学びました。また、J-PARCの紹介も行いました。
子供たちは、分光シートを使ったまんげきょうを様々な光源に向け、歓声を上げながら虹色の光の見え方の違いを観察しました。心に残る夏休みの思い出となったことと思います。
■「サイエンス×東海村×J-PARC展 」開催中(7月20日~9月29日、東海村歴史と未来の交流館)
ワークショップ「とうかいサイエンスラボ」ではJ-PARCの研究員も参加して、皆さんと一緒に実験や工作をしました。
科学者たちの素顔に迫る企画展、謎解きミッション、特別展示などは9月29日までお楽しみいただけます。是非、お越しください。
詳しくはこちら(東海村歴史と未来の交流館ページ) https://www.vill.tokai.ibaraki.jp/soshikikarasagasu/kyoikuiinkai/shogaigakushuka/9/1/2/9785.html
≪お知らせ 1≫
■J-PARC施設公開2024開催のお知らせ(9月28日)
9月28日(土)、J-PARC施設公開2024を開催します。実験施設や加速器などの見学(一部事前予約制)、サイエンスカフェ、体験コーナー、実験工作教室、スタンプラリーなど、たくさんのイベントがあります。また、キッチンカー、J-PARCグッズ等の出店もあります。皆様お誘いあわせの上お越しください。
※ご来場方法など、ホームぺージでご確認下さい。
詳しくはこちら(J-PARC施設公開2024特設ページ)https://j-parc.jp/OPEN_HOUSE/2024/
≪お知らせ 2≫
■ J-PARC市民公開講座開催のお知らせ(10月14日)
J-PARCセンターでは施設の利用運転開始から15周年を記念し、10月14日~18日、J-PARCシンポジウムを開催予定です。それに合わせ、10月14日(月・祝)に、一般向けの市民公開講座「J-PARCが創る未来、探る謎 -次世代のエネルギーから宇宙まで-」を水戸市民会館で開催します。こちらもぜひお越し下さい。
詳しくはこちら(J-PARC市民公開講座特設ページ)https://j-parc.jp/symposium/j-parc2024/pub-lecture/
J-PARCさんぽ道 ㊾ -建設工務部署のJ-PARC施設勉強会を開催-
2011年3月11日に起きた東日本大震災では、加速器トンネルの中が浸水するなどの甚大な被害を受けましたが、その年のクリスマスには運転を再開しました。その復旧の早さは驚異的だと、世界中の加速器関係者から絶賛されています。日本原子力研究機構(JAEA)では、各所に点在する研究施設の技術的視察を通し、建屋や工務関係の情報共有を行い、建設や修理、維持管理等のノウハウを伝承していくことを目的に、毎年、建設工務部門連絡会という会合を開いています。
今回の連絡会では、7月26日にJAEAに勤務する建設部や工務部署の職員がJ-PARC施設を視察しました。建設時期から20年程度経過した建物の老朽化に関する技術的な問題点を共有するため、リニアックやRCSの加速器トンネル、物質・生命科学実験施設の屋上などに行きました。J-PARCの建屋や施設の特徴の他に、復旧の手順などに関しても詳しい解説がありました。