トピックス

2024.04.26

J-PARC News 第228号

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■J-PARCセンター長 再任あいさつ

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 J-PARCセンター長に再任された小林隆です。2024年4月1日から3年間、引き続きこの職を務めることになりました。
 私が着任した2021年度からの3年間は、コロナ禍で人々の移動が厳しく制限されていました。それでもこの間に、RCS加速器は物質・生命科学実験施設(MLF)への陽子ビームを840kWまで増強して95%以上の運転効率を達成し、MR加速器は当初目標を超えるビームパワー760kWを達成しました。また、小惑星リュウグウのサンプルの分析、燃料電池内部構造の解析等、貴重なデータを得ることができました。J-PARCに関係するすべての皆様方のご協力の賜物であると感謝いたします。
 今後も安全に十分配慮した上、ハイパーカミオカンデの実験開始に向けてビームパワーの増強を継続するとともに、新しい施設の整備も進め、宇宙や物質、生命の起源に迫る研究をさらに加速する所存です。

 

 

■受賞

(1)日本鉄鋼学会2024年澤村論文賞

 東北大学金属材料研究所の小山元道准教授、J-PARCセンター中性子利用セクションの川崎卓郎氏及びステファヌス ハルヨ氏らは、日本鉄鋼協会2024年度澤村論文賞を受賞しました。この賞は、2022年の「鉄と鋼」及び「ISIJ International」に掲載された論文の中から学術及び技術上有益な論文に授与されるものです。
 受賞論文では、次世代の鋼鉄材料である「中Mn鋼」に焦点を当て、中性子ビームライン「TAKUMI」を活用して、リューダース帯における変形メカニズムを明らかにしました。

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(2)JPSJ 2022 Highly Cited Article

 中性子利用セクションの金子耕士氏(物質科学研究センター)、川崎卓郎氏、大原高志氏、鬼柳亮嗣氏らは日本物理学会が刊行する「JPSJ」で2021年に論文を発表しています。今般、引用数が多い上位10本の論文に与えられる本賞を受賞しました。
 この研究では、中性子ビームライン「SENJU」を用いて、希土類化合物EuAl4において10〜15.4 Kの間でおこる4段にわたる磁気多段転移の詳細を明らかにし、EuPtSiに続くf電子系磁気スキルミオン格子検出の礎となりました。

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(3)Acta Materialia & Scripta Materialia Outstanding Reviewer Award 2023

 中性子利用セクションのゴン・ウー氏が、無機材料科学に関する科学雑誌「Acta Materialia」及び「Scripta Materialia」の優秀レビュアー賞を受賞しました。Acta Materialiaは材料科学における最高峰ジャーナルの一つであり、その速報版としてScripta Materialiaがあります。
 ゴン氏は各誌の査読者として活躍し、本ジャーナルの品質向上に貢献した素晴らしいレビュアーであると編集者から認められました。

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■プレス発表

(1)量子ビームで「漆黒の闇」に潜む謎を解明 -縄文から始まった"漆技術"を最先端活用へ-(3月5日)

 漆は縄文時代の遺跡から分解されずに出てくるほど高い安定性を持つ、稀有な天然塗料です。中性子とX線という性質の異なる量子ビームを駆使することで、可視光では透過できない漆のナノ構造を解明することに成功し、日本の伝統工芸品として馴染みの黒漆の黒色の起源を明らかにしました。
 この分析手法により、黒漆発祥の歴史を解明できる可能性があります。さらに、歴史的資料の非破壊分析や、漆を利用した次世代に向けた新たな機能性材料の開発に役立てることも期待されます。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/03/05001302.html

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(2)素粒子ミュオンで半導体材料における水素の挙動を解明 -次世代不揮発性メモリー開発に期待-(3月5日)

 水素で電気抵抗を制御できる次世代記憶デバイス材料として期待される二酸化バナジウム(VO2)に対して、物質中で水素のように振る舞う素粒子ミュオンを用いることで、ナノスケール領域における水素の挙動を明らかにしました。
 VO2の応用先の一つである抵抗変化型記憶メモリーの動作は、脳の神経細胞が繋がる仕組みに似ているため、人工知能が学習するシステムに使えるかもしれません。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/03/05001303.html

 

 

(3)世界初、中性子で車載用燃料電池内部の水の凍結過程を観察 -氷点下環境での性能向上に大きく貢献-(3月14日)

 氷点下でより効率的に燃料電池を始動するには、氷点下環境下での発電中の燃料電池内部を観察し、水の凍結挙動を把握する必要があります。広い視野で観察するための大型環境模擬装置と、水と氷を高感度で識別する技術を新たに開発し、氷点下における大型燃料電池内部で水と氷を識別することが可能となりました。
 この技術は、将来の燃料電池の高性能化に不可欠な役割を果たすもので、燃料電池の研究開発の加速への貢献が期待されます。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/03/14001305.html

 

 

■J-PARCハローサイエンス「お届けします、K中間子」(3月22日)

 今回のハローサイエンスは、素粒子原子核ディビジョンの家入正治氏が、貴重で有用なK-中間子を実験に供する技術を紹介しました。
 J-PARCのハドロン実験施設では、純度を高めたK-中間子ビームを利用して核子の仲間のバリオンや新たな原子核を作り出し、バリオン間に働く力や多様な原子核を対象とした研究が進められています。
 研究の鍵を握るK-中間子は通常地球上には存在せず、J-PARC MR加速器からの陽子ビームと金標的の反応により作り出す必要があります。しかしながら同時に生じる様々な2次粒子の中、K-中間子は1000個に1個程度しかありません。大量のπ中間子に埋もれているため、高い電場を発生する静電粒子分離装置を使いK-中間子を選択し、ビーム中のK-中間子の純度を高めています。
 J-PARCでは世界トップクラスの純度を誇るK-中間子ビームを使って、宇宙の歴史と物質の成り立ちについて、さらに理解を進めていきたいと考えています。

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■加速器運転計画

 5月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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■お知らせ

 4月27日(土)~28日(日)幕張メッセにて開催される「ニコニコ超会議2024」にKEKが出展!!
詳しくは超KEK特設サイトをご覧ください。 https://www2.kek.jp/outreach/chokaigi2024/

 

 

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J-PARCさんぽ道 ㊺ -小林隆さんという人-

 冒頭で紹介した小林隆さんを、皆さんはどんな人だと思いますか。自室に閉じこもってデータと文献を睨んでいる人でしょうか。現場を忙しく飛び回り、後輩を厳しく指導する人でしょうか。小林さんはどちらのタイプでもありません。180cmの長身ですが威圧的な感じはなく、どこにでもいそうな人です。
 小林さんはニュートリノ研究の大家です。ニュートリノは宇宙で光の次に数が多い粒子ですが、ほとんど何にも反応をせず、正体は謎でした。梶田隆章さんはスーパーカミオカンデで大気ニュートリノの振動を世界で初めて発見し、ノーベル賞を受賞しました。小林さんは、J-PARCの加速器でつくられた大量のニュートリノビームをスーパーカミオカンデに飛ばし、ニュートリノ振動が起きていることを世界で初めて実証しました
 研究者としての小林さんは今、ニュートリノ振動と反ニュートリノ振動との違いの実証を目指しています。宇宙誕生直後に存在した反物質が今ではほとんど存在しない理由を探る、とてつもなくスケールの大きな実験です。
 小林さんはJ-PARCのTシャツを着て、地元の山、ラーメンの行列店、居酒屋や、東海村の「ミュオンにコーフンクラブ」に出没しています。見かけたらお声がけください。小林さんは誰にでもフランクに接する人です。

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