トピックス

2024.01.26

J-PARC News 第225号

PDF(888KB)

 

 

■小林隆J-PARCセンター長年頭挨拶

news225_1.jpg

 謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
 令和6年能登半島地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様にお見舞い申し上げます。被災地の一刻も早い復興を願っています。
 昨年は新型コロナウイルス感染症の第5類移行により行動制限がなくなり、J-PARCでは研究活動を本格的に再開することができました。RCS/物質・生命科学実験施設(MLF)は840kWで95%以上という非常に高い運転効率でビームを供給し、MLFの実験では様々な成果を上げることができました。MRは長年取り組んできたアップグレードにより、ニュートリノ施設へのビーム強度が510kWから710kWへ大幅増強に成功しました。
 一方、4月と6月にはKEK所掌の施設で火災が発生しました。人身事故には至りませんでしたが、地域を始め多くの皆様にご迷惑、ご心配をおかけしました。この場を借りて改めてお詫び申し上げます。
 J-PARCの使命は、素粒子・原子核物理、物質・生命科学などの幅広い分野の研究を発展させ、その起源や多様性にまつわる謎に迫り、人類のQuality of Lifeの向上に貢献することです。その基礎となる、何より重要な安全管理を向上させる努力も続けます。J-PARCの発展は、地域の皆様、世界中のユーザーの皆様、J-PARCに関わるすべての皆様のご理解、ご協力により成り立っています。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


令和6年1月吉日 J-PARCセンター長 小林 隆

 

 

■プレス発表

(1)硬くて丈夫なゲル電解質-フレキシブル電池の耐久性向上に期待-(11月25日)

 東京大学、JAEA、J-PARCセンター、KEK、科学技術振興機構らのグループは、高分子の相分離現象と伸長誘起結晶化を組み合わせることで、世界最高水準の強靭性と弾性率を示す、硬くて丈夫な電池用ゲル電解質の開発に成功しました。
 ゲル電解質は、高分子由来の柔らかさと安全性から、肌や服に貼り付け可能な次世代の「曲げられる」フレキシブル電池の電解質材料として注目されています。このような材料には、充放電に伴う金属結晶の成長が引き起こす電池の短絡を防ぐための硬さと、繰り返しの曲げによる亀裂の進展を防ぐ強靭性を兼ね備える必要がありますが、従来材料ではこの両立は難しいと考えられてきました。
 本研究では、材料内部にミクロ層分離構造を形成させることで、金属結晶の成長を防ぐのに十分な硬さを実現しました。さらに、曲げ伸ばしで大きな負担がかかると、高分子鎖が結晶化して硬くなることで、固体・半固体・有機無機複合ゲル電解質の中でも世界最高水準の高い強靭性を実現しました。
 世界最高水準の強靭性と弾性率を両立した自己補強ゲル電解質は、高い安全性と耐久性が必要とされるフレキシブル電池の電解質としての応用が期待されます。また、イオン液体などの、よりイオン伝導性の高い溶媒が利用できるため、センサーなど、他のフレキシブル電気化学デバイスに適した電解質のデザインにもつながる可能性があります。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/11/25001245.html

news225_2-1.jpg

 

 

(2)天然素材のセルロースを凍らせるだけ!強い機能性ゲル材料を新たに開発
 -凍結によるセルロースの結晶相転移と簡易なゲル合成法を発見-(12月1日)

 JAEA、豊橋技術科学大学、東京都立産業技術研究センター、明治大学らのグループは、水溶液凍結時に結晶間に生じるナノ空間で、セルロースの結晶変換が起きることを発見し、さらに簡易な方法で高強度セルロース多孔質ゲル材料の作製を実現しました。
 近年、持続可能社会実現のために、再生可能素材であるセルロースを活用した材料開発に関心が高まっていますが、強度や成型性の向上が課題でした。高強度性を発現させる鍵はセルロース分子の構造制御にあります。セルロース水溶液が凍結時に生じる氷結晶の周囲で形成されるナノメートルサイズの凍結凝集層に着目し、木材から抽出される天然に近いセルロースナノファイバーを用いて調べたところ、水酸化ナトリウムとクエン酸を添加すると凍結凝集層中でセルロース分子が化学反応し、従来にない強い三次元構造を持つセルロース多孔質ゲル材料ができることを発見しました。
 本研究で開発されたセルロース多孔質ゲル材料は、95%以上の高い空隙率、高い圧縮強度、高い成型性、無害の性質、両親媒性、生分解性の性質を有しており、有害物質の吸着剤や医療材料、二酸化炭素回収剤への応用が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2023/12/01001247.html

news225_2-2.jpg

 

 

(3)集まれ!分子-含水溶液中における疎水性物質の集合状態を観察-(12月14日)

 神奈川大学、大阪大学、東京理科大学、KEK、JAEAらの研究グループは、水とテトラヒドロフラン(THF)の混合溶媒中で水の割合を変化させると、発光分子を含む集合体のサイズと集合状態が変化し、それが発光強度の変化と相関することを発見しました。
 常温で液体の有機化合物であるTHFは、水と任意の割合で混じります。また、水とTHF混合溶媒中では疎水性有機分子が集合体を形成し、水とTHFの混合比を変化させると溶液の性質が変化することが知られています。しかし、集合状態がどのように変化し、性質の変化に影響を与えるかについての詳細は明確ではありませんでした。
 そこで本研究グループは、独自に開発した発光分子を用いて、水-THF混合溶媒中における疎水性発光分子について、含水率を変化させて様々な測定を行いました。その結果、溶媒中の水の体積分率が約50%で「緩い集合体」を形成し、約60%以上で「密な集合体」に変化することが明らかになりました。さらに、集合状態の変化が発光強度と対応していることも明らかになりました。
 今回得られた知見に基づき、疎水性分子の集合状態を自在に制御できれば、有機ELや有機レーザーなどの表示・照明デバイスの効率向上や、内服薬を効果的に働く場所へ確実に届けるための技術開発など、広汎な応用が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/12/14001258.html

news225_2-3.jpg

 

 

■J-PARCハローサイエンス「ミュオンを使ったイメージングあれこれ」(12月22日)

 物質・生命科学ディビジョンの下村浩一郎氏が、素粒子の一つであるミュオンを使ったイメージング技術を紹介しました。
 宇宙から絶え間なく降り注いでいるミュオンは、物を壊さずに中身の様子を透かして見る"イメージング"に利用されています。今までも、火山の内部を調べ噴火の可能性の有無や、エジプトのピラミッドの中に新たな空間を見つける大発見に貢献してきました。
 東海村教育委員会、J-PARCセンター等は、今年度からこの技術を使って村内に残る巨大な古墳の調査プロジェクトを立ち上げました。物理学や考古学など文系理系を問わず様々な分野の研究者と、地域の子供たちが一緒になり、古墳とミュオンへの理解を深めながら、その謎に迫っていきます。現在、子どもたちが中心となってミュオンの測定器を製作しており、来年度に古墳の内部の透視を開始する予定です。本プロジェクトの活動の様子は、J-PARCホームページでも紹介しています。
 今回のハローサイエンスは多くの方のご参加と活発な質疑があり、ミュオンへの関心と期待の高さを改めて感じました。これからもミュオンの活躍に是非ご注目ください。
※J-PARCホームページ トピックス内をご覧ください。https://j-parc.jp/c/topics/

news225_3.jpg

 

 

■出張授業

(1)日立市立大久保小学校で出張授業(12月18日)

 テーマは「見えない真空を見てみよう」、講師は加速器ディビジョン 神谷 潤一郎氏でした。
 日立シビックセンターが日立市内への小学校向けに企画したものの一環です。

news225_4-1.jpg

 

 

(2)東海村立東海南中学校で出張授業(12月22日)

 「役立つ素粒子 ミュオン」をテーマに、ミュオンセクション 竹下聡史氏 が出張講座を行いました。中学1年生の皆さん178名が参加し「ミュオンについて興味わきました!」、「今度調べてみたいです!」など感想が寄せられました。

news225_4-2.jpg

 

 

■加速器運転計画

 2月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

news225_5.jpg

 

 

news219_sanpo.png



J-PARCさんぽ道 ㊷ -東海村の冬の風物詩-

 J-PARCからスーパーカミオカンデに向けて打ち込むニュートリノの数は膨大な数を誇ります。東海村は世界最大のニュートリノ生産地と言えるでしょう。
 もうひとつ、この地域が有数の生産地として誇れるものが干し芋で、隣接するひたちなか市、那珂市を含めると日本の生産量の9割以上を占めています。火山灰を含んだ水はけのよい赤土の土壌、ミネラルを含んだ潮風、雨の少ない気候は、サツマイモ作りにも干し芋作りにもピッタリです。干し芋作りは、蒸す、剥く、切る、干すという極めてシンプルな作業で、その分ごまかしがききません。春先、前の年に土の中に保管していた種芋を掘り起こして苗床を作り、5月に苗植え、10月に収穫、12月からの干し芋づくりを始め、今の時期に出荷が最盛期を迎えます。
 J-PARCのスタッフの中にも干し芋を作っているご実家が何軒かあります。高級品のイメージがある干し芋ですが、形の整っていない切れ端などは「セッコウ」と呼ばれ、手ごろな価格でごくわずかな量が出回ります。
 東海村は世界最先端の研究を行っている一方で農業も盛んな村です。一年で最も寒いこの季節、噛むとすぐ、自然な甘さが口の中いっぱいに広がり、身も心も温かくなる干し芋は、この地で暮らす人々のささやかな楽しみとなっています。

news225_6.jpg