トピックス

2021.09.30

J-PARC News 第197号

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■第18回加速器学会年会賞を受賞

 第18回の日本加速器学会年会で、J-PARCの職員4名が年会賞を受賞しました。加速器学会では、研究活動・研究者生活の初期段階にある学生及び若手研究員を奨励する目的で、年会会期中の優れた発表内容に対し、年会賞を設けています。
 受賞者氏名及び受賞内容は、以下の通りです。
【口頭発表】
安居 孝晃氏 「J-PARC MRにおける三次構造共鳴補正」
【ポスター発表】
岩田 宗磨氏 「J-PARC MRにおけるFX EDDY SM の配置と故障対策の検討」
杉田 萌 氏 「RCSバンプ電磁石磁場測定用プローブの検証」
サハ プラナブ氏 「J-PARC 3GeVにおけるレーザー荷電変換入射実現に向けた原理検証実験の進捗状況」

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■プレス発表

(1)水系リチウムイオン電池実用化のカギを握る -濃厚リチウム塩水溶液の液体構造を解明-(7月28日)

 気候問題の解決に重要な役割を果たすことが期待される蓄電池。安全で高性能な蓄電池の研究開発が盛んに行われています。従来のリチウムイオン電池に使われている可燃性で高価な有機電解液を水に置き換えることができれば、安全で安価な電池をつくることができます。しかし、リチウムイオン電池の作動する電圧では、水は電気分解してしまいます。近年、電解液に濃厚リチウム塩⽔溶液を⽤いることで⽔が分解せずに電池が駆動することが報告され、濃厚リチウム塩水溶液の分子レベルでの液体構造が重要と考えられていましたが、その構造は分かっていませんでした。
 新潟大学の梅林教授らは、ラマン分光法によるリチウムイオンの状態分析と中性⼦・X線を利⽤した実験と理論的なシミュレーションを組み合わせて、濃厚リチウム塩⽔溶液の液体構造を分⼦レベルで明らかにしました。中性子の実験は、J-PARCの高強度全散乱装置(NOVA)を用いて行いました。今回明らかにした構造は、水系リチウムイオン電池の駆動の鍵を握る皮膜(Solid Electrolyte Interphase (SEI))形成に大きく影響します。今回の成果を指針として、より良好な⽪膜を形成する濃厚リチウム塩⽔溶液を開発し、蓄電池への応⽤を⽬指します。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2021/07/28000728.html

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(2)希少な元素を使わずにアルミニウムと鉄で水素を蓄える -水素吸蔵合金開発の新たな展開を先導-(7月29日)

 気候問題解決のためのもう1つのキーワードである「水素エネルギー」。水素社会の実現には、「どのように水素を蓄えるか?」が大きな課題です。水素吸蔵合金は、金属原子間の隙間に原子状の水素を取りこむことで、気体の状態と比べて1,000分の1程度の体積で、コンパクトに水素を蓄えます。「水素と反応しやすい金属」と「反応しにくい金属」の合金を用いるのが定石ですが、前者は「レアメタル」と呼ばれる希少な元素から選ぶことが典型で、資源量が少なく、価格も高いことが問題です。
 量子科学技術研究開発機構の齋藤グループリーダーらは、ともに水素と反応しにくい金属で、資源量が豊富な元素であるアルミニウムと鉄の合金に着目し、高温高圧の水素と反応させることにより、従来のレアメタルを使ったものと同等レベルの量の水素を吸蔵できる新しい金属水素化物Al3FeH4の合成に成功しました。この合金の結晶構造を放射光X線回折、およびJ-PARCの高強度全散乱装置(NOVA)を用いた中性子回折で分析したところ、従来の水素吸蔵合金と異なる新しい結晶構造を持つことが分かり、これにより多くの水素を蓄えられることが明らかになりました。今後、合金の表面の性質を変えることで、常圧付近で水素を吸蔵する合金の実現が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2021/07/29000729.html

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(3)逆転の発想『ラビ振動分光』でミュオニウム原子を精密に測定(8月10日)

 原子は飛び飛びのエネルギー状態(準位)を持ち、準位間の差に相当するエネルギー(周波数)の光だけを吸収したり放出したりします。その周波数(共鳴周波数という。)を測定することで原子の準位構造を明らかにする研究手法が、原子分光法です。標準的な分光法では、原子に与える光の周波数を変化させ、信号強度が最大となる周波数を共鳴周波数として測定しますが、精密な測定のためには実験条件のコントロールが必須でした。
 J-PARCセンターの西村昇一郎研究員(KEK)、東京大学の鳥居寛之准教授らは、ある固定の周波数での信号強度の時間変化が、共鳴周波数からのずれに依存して特徴的な振動を示す(ラビ振動)ことを利用して、逆算して共鳴周波数を求めるという、従来の分光法よりも高精度の新しい原子分光法を編み出しました。この分光法をミュオニウム原子(水素原子の原子核を正ミュオンに置き換えた原子)に適用し、電子と正ミュオンのスピンの相互作用に起因する「超微細構造」による共鳴周波数を精密に測定することに成功しました。今年度後半にはJ-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)に最高強度のミュオンビームラインが完成予定で、今後、より高精度の測定を短期間で達成できると期待しています。これにより、ミュオンの質量を高精度で決定して量子電磁力学をはじめとする素粒子物理学の標準模型を検証できるようになります。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.https://j-parc.jp/c/press-release/2021/08/10000733.html

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■第1回J-PARC講演会を実施(8月25日)

 J-PARCでは、最新の実験や研究成果を多くの人に理解していただくため、講演会を開催することになりました。第1回講演会は「宇宙からのおくりもの 〜ミュオンで命のふるさとを見つける〜」という題名で、オンラインで開催しました。6月28日から7月3日まで、惑星探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプルをJ-PARCの負ミュオンビームで分析したことを受けて行われたものです。
 まずJ-PARCの下村浩一郎教授がミュオンを発生させる方法や性質を説明しました。そしてJ-PARCの各施設の構成や特徴、それらの施設を使った実験結果、今後期待される成果等の紹介がありました。
 続いて、大阪大学の二宮和彦准教授から、ミュオンを使った元素分析の特徴として、分析したい物質を破壊することなく内部に存在するあらゆる元素を分析できる旨の説明があり、この性質を利用した考古学での分析等の紹介がありました。そして、小惑星リュウグウのサンプルを解析する必要性と、J-PARCで発生させる世界最高強度の負ミュオンビームを使用する意義が述べられました。
 この様子は、8月に開設したJ-PARCのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。https://www.youtube.com/watch?v=Ohw6wqHH8Wc
チャンネル登録もよろしくお願いします。news197_3-1.jpg

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■J-PARCハローサイエンス「J-PARC Main Ring アップグレード計画」(8月27日)

 8月の「J-PARCハローサイエンス」は茨城県に緊急事態宣言が発出されたため、オンラインのみでの開催となりました。
 講師は加速器ディビジョンの栗本佳典氏です。
 Main Ring(MR)は、J-PARCにある3基の加速器のうち周長1.6㎞を誇る最大の加速器で、RCS加速器から受け取った3GeVの陽子を30GeVまで加速します。加速された陽子ビームはハドロン施設とニュートリノ施設に供給され、施設内の標的に当たることで二次粒子が発生します。二次粒子には実験に必要なニュートリノや中間子が含まれます。
 今回のMRのアップグレード計画に最も関連があるのは、岐阜県のスーパーカミオカンデに送るニュートリノの数を増やすことです。ニュートリノの数を増やすには、陽子の供給量を増やす必要があります。そのための手法として、一度に加速できる陽子数を増やすこと、加速時間を短縮してニュートリノ施設への供給回数を増やすことの二つの観点から研究開発が行われていますが、今回のアップグレードは後者になります。今回の計画では、陽子ビームが発生する間隔を今までの2.48秒から1.32秒にする予定であり、そのために必要な電磁石電源の増強や大容量のコンデンサ設置の具体的な内容が紹介されました。

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■J-PARCオンライン施設公開のお知らせ

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 11月13日(土)、昨年に引き続きオンラインで施設公開を開催します。招待講演等のライブ配信、通常は公開していない施設内部の映像やキッズコーナー等、楽しい企画が盛りだくさんです。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。

 

 

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さんぽ道 ⑮ -秋の夜長-

 J-PARC研究棟は、日の出の名所であるとともに、月の出の名所でもあります。東に海が開け、水平線から日や月が昇るのが、居ながらにして窓から見えるのです。中秋の名月に当たる9月21日の宵は、風がなく、晴天に恵まれました。
 写真は18時21分、月の出の16分後に撮影したものです。月齢14.1の満月は、朝焼けのように、水平線のそばに横たわる雲を赤黒く照らしています。その下の海面は、沖から岸まで一気に月光を反射し、ごく細かい波の動きに同期してチカチカと明るさを変えています。 賑やかな空と海の手前には漆黒の松林が広がっています。新型コロナ対策で窓を開けた4階の居室にまで、この茂みの中で鳴き競っているコオロギの声が届いています。
 最近、会議はほとんどオンラインとなり、私たちは、今まで以上にパソコンのディスプレイを凝視し、イヤホンを付けて業務をしています。夜が近づくと、自分たちが目と耳を酷使していたことを実感します。そんな時、私たちはちょっとの間、パソコンから離れ、名月の光の広がりとコオロギの音色に浸っています。

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