トピックス

2020.02.28

J-PARC News 第178号

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≪Topics 1≫
■ハイパーカミオカンデ計画の開始(2月12日、J-PARC HP掲載)

 ハイパーカミオカンデ計画は、日本をホスト国とするニュートリノ研究に関る国際協力科学事業です。この度、2019年度補正予算が認められ、正式に開始される運びとなりました。ハイパーカミオカンデ計画では、T2K実験が目指す宇宙の物質の起源解明をさらに加速させるため、スーパーカミオカンデの 8.4 倍の有効体積を持つ水槽と超高感度光センサーからなる検出器の建設と、J-PARC加速器やニュートリノ施設の高度化を行います。世界17ヶ国(2019年6月時点)が参加する国際共同研究で、装置製作などを分担しあい、2027年の実験開始を目指しています。

 

≪Topics 2≫
■ニュートリノ実験施設(Nu)が500kWの利用運転を開始

 J-PARC MR(Main Ring)加速器は、2009年からハドロン実験施設とニュートリノ実験施設(Nu)に向けた利用運転を開始し、Nuへのビームはこれまで約100kW運転からステップbyステップで出力増強を進めてきました。令和2年1月上旬から現状のMRの運転周期約2.5秒で得られる最大のビームパワー500kWでNuへビーム供給を開始しました。この達成はMRの最大出力設計値750kWに向けた大きな一歩です。高周波加速器空胴(RF)の増強、電磁石電源の入れ替えなどを行い、運転周期を現状の約半分にして高出力化を達成する予定です。

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■乱れのない氷をつくる(2月3日、プレス発表)

 通常我々が目にする氷は、水分子のレイヤーが交互に並んだ六方晶氷(氷Ih)です。一方、温度や圧力を変えると分子の並びの異なった様々な氷になります。そのうちの1つである"氷Ic"は、レイヤーの積み重なり方が異なる氷(立方晶氷)で、北極や南極の成層圏にある雲の中や宇宙空間、もしくは急速凍結した生体試料・冷凍食品などに存在することが知られています。
氷Icに関して、これまで数々の作成例が報告されてきましたが、それらは皆、レイヤーの積み重なりが部分的に乱れているものであり、完全な立方晶氷は作成されていませんでした。東京大学の小松准教授らは、J-PARCの超高圧中性子回折装置PLANETにおいて自ら考案した低温高圧プレス「水戸システム」を用い、氷Icと同じ骨組みを持つ「水素ハイドレート」を室温高圧下で合成した後、冷却・減圧して水素を抜くことによって、積み重なりに乱れのない氷Icの合成に世界で初めて成功しました。このようにして作った氷は、乱れのあるものに比べ、240K(-33℃)という低温の世界としては相当高い温度まで安定に存在することが分かりました。今後、この氷の物性を測定し、乱れのあるものとの比較を行うことによって、乱れが及ぼす氷の性質への影響が明らかになり、さまざまな応用が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。http://j-parc.jp/c/press-release/2020/02/03000401.html

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■生命現象の本質を探る量子構造生物学の挑戦-地球の窒素循環を担う酵素の反応機構を全原子構造決定により解明-(2月10日、プレス発表)

 近年の人類の活動によって窒素化合物の過剰流入による環境汚染が問題となっています。本研究の対象は、土壌中や水中の窒素化合物が微生物の働きによって窒素ガスにまで段階的に再変換され、大気中へと戻される「脱窒」において、亜硝酸イオン(NO2-)を一酸化窒素ガス(NO)に変換する銅含有亜硝酸還元酵素(CuNIR)です。生体で起こる化学反応を促進させる物質である「酵素」と呼ばれるタンパク質の働きを理解するためには、その分子の立体構造を原子・電子レベルで正確に決定し、その構造に基づいて、どの部分がどのように動くのか、他の分子にどの部分が作用するのか、どこを電子が流れていくのか、といったことを実験的に計測したり、理論計算で予測したりすることが必要です。そこで、量子科学技術研究開発機構の玉田氏らは、J-PARCに建設された茨城県の中性子実験装置iBIXを用いてCuNIRの高精度中性子結晶構造解析を行い、CuNIRによる化学反応の理解に欠かせない水素原子を正確に観測することで、反応機構の詳細に迫る知見を得ました。観測結果はミクロの現象を記述する量子力学を用いた理論による予想を支持したものです。中性子構造解析による水素原子の直接観測が、生命現象の本質を量子のレベルから理解しようとする「量子構造生物学」という新しい領域を切り拓くものです。本成果は、水素イオンや電子の移動といった、CuNIR中で進行する化学反応の各段階を適切に制御する技術の基盤を与えるものであり、今後、産業応用にもつながると考えられます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧くださいhttp://j-parc.jp/c/press-release/2020/02/11000412.html

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■名古屋大学大学院生 須江祐貴さんと四塚麻衣さんが、高品質のミュオンビーム実現に不可欠なビームの時間分布モニタを開発(2月13日、J-PARC HP掲載)

 J-PARCでは、素粒子ミュオンの基本的性質の一つである異常磁気能率(g-2)と電気双極子能率(EDM)を同時精密測定するための実験を計画しています。精密測定には、ビームの空間的、時間的広がりが抑えられた高品質のミュオンビームが不可欠です。そのために、生成されたミュオンビームを一旦減速し、再び加速します。須江祐貴さんと四塚麻衣さん(名古屋大学大学院生)達は、加速後のミュオンビームの時間分布を測るモニタを開発し、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)のテストミュオンビームラインで、加速前と比べて1桁以上短い500ps(ピコ秒;1ps=10-12s)のビームの時間幅の測定に初めて成功しました。実際のg-2/EDM測定時にはさらに1桁以上短い数十psの時間分解能が必要です。実験室では、このモニタが65psの時間分解能を記録しました。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。http://j-parc.jp/c/topics/2020/02/13000418.html

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■第7回加速器施設安全シンポジウム開催(1月23~24日、IQBRC)

 1月23~24日、第7回加速器施設安全シンポジウムをいばらき量子ビーム研究センター(IQBRC)で開催しました。今回は「加速器施設におけるインターロック」と「機械工作作業における安全確保」をメインテーマとしました。125名の参加があり、インターロックに関して、国内7加速器施設における運用についての口頭発表とポスター発表がありました。機械工作に関して、J-PARCにおける取組みと東京大学での工学系研究における安全管理について報告があり、有意義な情報交換と意見交換が行われました。また、2019年4月にKEKつくばキャンパスの電子陽電子入射器棟加速管組立室で発生した火災の状況と安全考察に関る特別講演があり、安全確保に向けた取り組みについて報告がありました。最後に、2020年11月に大型加速器施設の安全に関る情報交換を行うInternational Technical Safety Forum(ITSF)-2020が理研和光キャンパスで開催されることが紹介されました。

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■村松晴嵐「クロマツ林」リジェネプロジェクト~クロマツ植樹体験~開催(2月15日、東海村)

 東海十二景の一つである「村松晴嵐」周辺の松林が松くい虫による松枯れの被害を受け、景観が損なわれています。J-PARCは、この松林の一角に建設された研究施設で年間3万人以上のユーザーが訪れます。今回、村松晴嵐「クロマツ林」リジェネプロジェクトとして、東海村主催でクロマツ林を再生するために環境整備とクロマツの植樹が行われ、大井川宏之 原子力科学研究所長、齊藤直人J-PARCセンター長、二川正敏 副センター長が村内の小学生らと共に参加し、緑の松林の再生を願いました。

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■サンジェイ・クマール・ヴァルマ駐日インド大使がご視察(2月5日)

 2月5日、ヴァルマ駐日インド大使ら一行がKEKとJ-PARCを訪れました。J-PARCでは、齊藤直人センター長からJ-PARCにおける研究の概要の説明を受け、その後MLF、ニュートリノ実験施設、ハドロン実験施設の3施設を視察しました。今後、素粒子原子核、物質生命科学分野における、両国の研究協力が一層促進されると期待されます。

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■J-PARCハローサイエンス「謎の素粒子ニュートリノで探る宇宙の物質の起源」(1月31日、東海村産業・情報プラザ「アイヴィル」)

 1月のサイエンスカフェは、J-PARCセンターの小林隆 素粒子原子核ディビジョン長が、素粒子ニュートリノについて話しました。まず、現在の素粒子の世界像について解説し、3種類あるニュートリノの質量、その振動などについて解き明かすことが、物質の起源の解明に繋がると考えていること、素粒子が粒子であるとともに波の性質をもつことを、スクリーン板の二重スリットを通過する電子(素粒子)が縞模様を作る実験動画で解説、そして、ニュートリノが異なる振動数(重さ)を合わせ持つ粒子で、2つの音叉の音の振動数を変えて鳴らすと唸りが生じるように、時間とともにニュートリノが別の姿で現れる事象を説明しました。次年度のハローサイエンスでは、今回の続きとなるT2K実験やハイパーカミオカンデ計画などについて紹介する予定です。

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■J-PARC科学実験教室(2月13日、東海村立白方小学校/ 2月16日、日立シビックセンター)

 2月13日は、白方小学校の科学クラブで振り子ベル工作を実施しました。振り子ベルは、二つのスチール缶の間に糸で垂らした画びょうを静電気で揺らして音を鳴らします。児童たちは、ビニルパイプをティッシュペーパーで擦って懸命に静電気を発生させ、音が鳴った時には歓声が上がりました。
2月16日は、日立シビックセンター科学館で9日間にわたって開催された「日立サイエンスショーフェスティバル」の最終日に、偏光まんげきょう工作を出展しました。紙コップと偏光シート、透明板で作る実験工作教室には多くの親子連れが訪れました。光の性質について説明を聞いた後、親子で協力して透明板にセロハンテープを貼ったり偏光シートをセットしたりしてまんげきょうを完成させ、くるくると回して現れる模様を観察しました。

 ●東海村立白方小学校

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 ●日立サイエンスショーフェスティバル

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■加速器運転計画

 3月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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