トピックス

2019.09.30

J-PARC News 第173号

≪Topics≫
■J-PARC10周年記念式典・J-PARCシンポジウム2019開催(9月23~26日、つくば国際会議場)

 J-PARC全施設の利用運転開始から10年を記念して「J-PARC10周年記念シンポジウム」をつくば国際会議場で開催しました。期間中、市民公開講座、記念式典、講演会、パネル討論会が行われました。初日の「宇宙・物質・生命の起源を求めて」をテーマとした市民公開講座には約330名もの方々が会場を埋め尽くしました。講座では、齊藤直人J-PARCセンター長、各分野で最先端研究に携わる著名な4名の研究者※1の講演があり、活発な質疑応答がありました。2日目の「社会における科学の役割、世界における日本の役割」をテーマとしたパネル討論会では、国内外の大学教授4名※2をパネラーに迎え、日本の科学の現状、将来の課題とあるべき姿について深い議論が展開されました。続く記念式典は国内外からの来賓や研究者と施設の関係者ら約600名の参加のもとで行われました。記念講演では、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章 東京大学宇宙線研究所長がJ-PARCと素粒子・ニュートリノについて講演しました。また、24~26日には招待講演と素粒子原子核、物質生命科学、加速器、核変換それぞれの分野に関する多くのパラレルセッションで、関連する研究成果の報告と活発な質疑応答が行われ、シンポジウムを成功裏に終えました。また27日のJ-PARC見学ツアーには、初めて施設に訪れる海外の研究者らを主にした約30名が参加しました。
※1 村山 斉 東京大学 Kavli IPMU/カリフォルニア大学 バークレイ校 教授 加藤 晃一 自然科学研究機構生命創生探究センター長 岸本 浩通 住友ゴム工業株式会社分析センター長 梶田 隆章 東京大学宇宙線研究所 所長 ※2 大栗博司 東京大学 Kavli IPMU機構長 中沢新一 宗教史学者/明治大学特任教授 WARK David オックスフォード大学 教授 渡辺美代子 日本学術会議 副会長

 ●市民公開講座(9月23日)

news173_1-1.jpg

 

 ●10周年記念式典(9月24日)

news173_1-2.jpg

 

 ●シンポジウム(9月24~26日)とJ-PARC見学ツアー(9月27日)

news173_1-3.jpg

 


■量子干渉効果と格子欠陥が磁気準粒子に及ぼす作用を中性子散乱で観測(8月21日、プレス発表)

 磁性体は、磁気記録媒体、磁気ヘッド、永久磁石など様々な用途で応用されていますが、その磁性は主に古典物理学で説明できるものでした。最近は、磁性についての量子力学的な理解が進みつつあり、それを応用できれば、新しい磁気デバイスの開発につながることが期待されます。本研究では、量子磁性体であるBa2CoSi2O6Cl2内の2つのコバルトイオンの電子スピンが結合した対(ダイマー)の磁気励起を、J-PARCのAMATERASを用いた中性子非弾性散乱実験で調べました。ダイマーの磁気励起はトリプロンと呼ばれる仮想的な磁気準粒子で説明され、トリプロンは通常は波として磁性体中を伝搬します。図に見られる得られた3種類の励起スペクトルは、いずれも励起エネルギーが波数に依存しないことから、波として伝搬する励起ではなく、結晶中の特定の位置に局在する励起です。これはすなわち、ダイマーに働く周辺の相互作用のそれぞれが互いに絶妙に異なる力を及ぼすためにダイマーの状態が定まらなくなる「欲求不満」状態である、「フラストレーション」が完全な場合、通常は波として磁性体中を伝搬するトリプロンが磁性体中で全く動けなくなるということが理論で予測されていましたが、それを中性子散乱実験により実証したものです。また、この中で、最大の強度を持つ励起エネルギー5.8 meVに観測される励起は、強度の波数依存性も見られませんでした。この励起がこの物質本来のダイマーのトリプロンへの励起と思われますが、それが1つしかないことは、全てのダイマーが等価であることを示しています。一方、励起エネルギー6.6、4.8 meVに観測される励起は、強度の波数依存性があり、格子欠陥による不対スピンとダイマーが結合して形成される2種類の量子力学的励起状態であることが、この結合モデルに基づき計算した励起スペクトルの波数依存性と実験結果との一致から明らかになりました。今回観測した2種類の交換相互作用の干渉効果と格子欠陥の効果は、いずれも磁性体の量子力学的な効果です。今後、量子磁性体の概念が基本となり、新たな磁気デバイス開発の潮流をもたらすことを期待するものです。
詳細はJ-PARCホームページをご覧ください。 http://j-parc.jp/c/press-release/2019/08/21000315.html news173_2.jpg

 

 

■相図の裏に隠されていた新しい鉄水素化物を発見(8月23日、「Scientific Reports」オンライン版掲載)

 鉄水素化物は、金属水素化物の典型物質として、また地球中心核に存在する軽元素の貯蔵材料として、半世紀にわたって研究されています。地球の内部で想定されるような高圧下でこれまでに報告されている安定相の結晶構造は面心立方晶と二重六方晶のみで、同じ温度圧力領域で純鉄がとる六方晶は報告されていませんでした。これまでの研究では、鉄に対して過剰の水素を反応させて水素化物を合成していたのに対し、本研究では水素の量を少量に制限して合成したところ、高温高圧下で六方晶の鉄水素化物が形成されることを世界で初めて発見しました。J-PARCの超高圧中性子回折装置PLANETにおいて高温高圧下(4-7万気圧,室温-1100 K)で中性子回折を行い、水素(実際は重水素)の組成および結晶構造中の水素位置を求めたところ、その値は鉄原子一つ当り0.1-0.6(温度に依存)であり、水素原子は6個の鉄原子で囲まれた八面体サイトを部分的に占有していることが分かりました。水素侵入による金属格子の膨張量は、面心立方晶および二重六方晶鉄素化物の時より約10%も大きく、また温度とともに侵入量が増えるという面心立方晶および二重六方晶とは逆の振る舞いを示すことも分かりました。一連の鉄水素化物の構造安定性および水素溶解特性の結晶構造依存性は今後の理論研究の課題です。 また、地球科学的には、現実の地球中心核に近いより高い温度圧力下での実験データ を取得することで、地球中心核に存在する未知の軽元素の特定に寄与することが期待されます。
※ 一般に水素を含む物質の中性子回折実験では、測定データのバックグラウンド低減のために水素をその同位体である重水素で置き換えて実験がなされる。
詳細はJ-PARCホームページをご覧ください。 http://j-parc.jp/c/press-release/2019/08/08000305.html

news173_3.jpg

 

 

■第32回J-PARCハローサイエンス「見れば納得!素粒子ワンダーランド」(8月30日、東海村産業・情報プラザ「アイヴィル」)

 極微の世界の素粒子が目に見えたらいいな、そんな思いを手作りの模型で実現してみました。8月のハローサイエンスは、広報セクションの坂元眞一科学コミュニケーターが、自慢の再現実験を披露しながら、素粒子の世界を巡るお話をしました。今回は小学生の参加者があり、ハローサイエンスへの関心の広がりが感じられました。微粒子が不規則に運動する現象(ブラウン運動)で分子の存在が明らかになりました。これを、分子を模した小鉄球が飛び交う中で、ペットボトルのふたで表した微粒子が動き回る様子で再現しました。その他、原子の構造を明らかにした模擬ラザフォード散乱実験や、二重スリット実験も注目の的でした。新しいスタイルのハローサイエンスに、難しい素粒子も少しは身近に感じられたのではないでしょうか。

news173_4.jpg

 

 

■第5回J-PARCメディア懇談会(9月10日、J-PARC)

 J-PARCセンターにおける最先端の研究活動を紹介する、第5回メディア懇談会を9月10日に開催し、県内外の報道機関6社8名の参加がありました。J-PARCの概要説明・研究紹介では、齊藤直人センター長が全体概要を報告、研究担当者からトピックスとしてハドロン実験施設での「中性K中間子の稀な崩壊を探索する国際共同実験(KOTO実験)」と、MLF(物質・生命科学実験施設)での「地球温暖化を引き起こす代替フロンガスを使わない固体冷媒による冷却技術に貢献する物質科学研究」について紹介しました。その後、施設見学でリニアックトンネル内を、また、ニュートリノ前置検出器、MLF実験ホール及びハドロン実験施設をそれぞれ見学し、最後に研究者を交えた全体質疑応答を行い、J-PARCに対する理解を深めていただきました。

news173_5.jpg

 

 

■西川公一郎名誉教授追悼記念シンポジウム(9月27日、KEK小林ホール)

 元J-PARCセンター副センター長の西川公一郎 KEK名誉教授が、2018年11月に永眠されました。その優れた功績を偲び、9月27日にKEKつくばキャンパス小林ホールで「西川公一郎名誉教授追悼記念シンポジウム」が開催されました。西川氏は、東海村にあるJ-PARCと飛騨市神岡町にある東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデ測定器を用いて2010年4月から開始された、世界12ケ国約500人の研究者らが参加する長基線ニュートリノ振動実験「T2K」の代表者としてニュートリノ研究を主導されるなど、強いリーダーシップでJ-PARCでの研究に大きく貢献をされました。シンポジウムでは海外の研究者も多数参加し、西川氏の業績を振り返りました。

news173_6.jpg

 

 

■加速器運転計画

 10月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

news173_7.jpg