J-PARC News 第168号
■固体冷媒を用いた新しい冷却技術の開発に期待~
「柔粘性結晶」の圧力変化に伴う分子運動の変化が巨大な「熱量効果」をひきおこすメカニズムを解明~(3月29日、プレス発表)
環境負荷が懸念されるフロン等の気体冷媒に代わり、磁場、電場などの外的要因により発熱・吸熱する「熱量効果」をもつ固体冷媒を用いた冷却技術に期待が集まっています。本研究は、まず、液体と固体の中間の性質をもつ「柔粘性結晶」が圧力変化で生ずる大きな熱量効果を確認し、次に、そのメカニズムとして、圧力変化により、結晶内の分子や原子が「結晶格子内で自由に回転できる状態」(常圧時)と「結晶格子に固定され特定の方向のみに振動している状態」(高圧時)の間で転移することで巨大な圧力熱量効果が生じることを解明しました。自由回転状態は振動状態よりも分子・原子が様々な状態をとることができるので、エントロピー(系のミクロレベルでの「乱雑さ」を表す物理量)が大きく、エントロピーが増大した分が大きな熱量として吸熱されます。分子の運動状態は、J-PARCの冷中性子ディスクチョッパー型分光器AMATERASを用いた中性子準弾性散乱・非弾性散乱実験により調べられました。分子が回転運動していると、入射する中性子は準弾性散乱されます。図で、常圧で見られる分子の自由回転運動による準弾性散乱が高圧では見られないことは、高圧では自由回転運動が止まったことを示しています。圧力熱量効果のメカニズムを原子レベルで解明したことで、より優れた性能を持つ圧力熱量効果材料の探索や設計が進むと期待されます。
詳細はJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2019/03/29000233.html
■日本原子力学会2019 年春の年会で齊藤直人J-PARC センター長が特別講演
「大強度陽子加速器で未来を加速する」(3 月20 日、茨城大学)
3月20日から22日にかけて、日本原子力学会2019年春の年会が茨城大学水戸キャンパスで開催されました。初日の特別講演で、J-PARCの齊藤直人センター長が「大強度陽子加速器で未来を加速する」とのテーマで、施設の概要や研究成果について講演しました。J-PARCでは世界最高クラスの陽子ビームで様々な二次粒子を生成し、中間子などを利用して宇宙や生命、物質の起源の探索といった学術研究が行われていること、トピックスとして中性子などの利用によるエコタイヤや電解液層にセラミックスを使った全固体電池の開発など産業利用も進んでいることが紹介されました。
■若井栄一氏、石田卓氏らが、第1回日本原子力学会材料部会Best Figure賞を受賞
作品題目:『RaDIATE国際協力研究におけるTi合金の構造像とPNNLでのひと時』(3月20日、茨城大学)
日本原子力学会材料部会は、原子力材料分野における発展や進歩を促すことを目的とし、材料部会に属する正会員らの中から当該分野において顕著な貢献をした個人またはグループに部会賞(功績賞、若手優秀賞、Best Figure賞)を授与することとなりました。今回、J-PARCセンターの若井栄一氏※1、石田卓氏※2、PNNL※3の研究者2名、Fermilab※4の研究者1名の作品題目『RaDIATE国際協力研究におけるTi合金の構造像とPNNLでのひと時』に、学術的に大変興味深くかつ華麗であり原子力材料の研究と技術開発の発展に貢献するものとして第1回日本原子力学会材料部会Best Figure賞が与えられ、3月20日の材料部会総会で表彰されました。
※1 物質・生命科学ディビジョン ※2 ニュートリノセクション
※3 (米国)パシフィックノースウェスト国立研究所 ※4 フェルミ国立加速器研究所
■第4回J-PARCメディア懇談会開催(3月19日、東京)
当センターにおける最先端の研究活動を各方面のメディアに向けて紹介するメディア懇談会を開催しました。当日は、報道関係8社、10名の参加があり、金谷利治 物質・生命科学ディビジョン長がJ-PARCの概要と研究成果を紹介し、続いて「ミュオンで視る物質内部の世界」と題し三宅康博 同副ディビジョン長が、「エネルギー変換デバイスの高性能化に新たな道筋」と題し川北至信 同ディビジョン中性子利用セクションサブリーダーがそれぞれ報告しました。活発な質疑応答が行われ、J-PARCに対する関心の高さがうかがえました。
■T2Kコラボレーションミーティング開催(3月25日~29日、IQBRC)
3月25日から29日にかけて、T2K国際共同実験に携わる国内外の研究者ら約200名が参加して、T2Kコラボレーションミーティングが、いばらき量子ビーム研究センター(IQBRC)で開催されました。27日の全体会議の冒頭には、新しくスポークスパーソンになった市川温子 京都大学准教授(元 KEK)が、今後のT2K実験に向けた抱負を力強く語りました。 また、ミーティングでは、ビームラインや前置検出器のアップグレード、そして解析の方針などが議論されました。
■J-PARCワークショップ「小型から大型中性子源の施設連携研究会」開催
(3月28日、東京大学・弥生講堂)
3月28日、日本中性子科学会、J-PARCセンター及びJCANS※の共同で「小型から大型中性子源の施設連携研究会」をJ-PARCワークショップとして開催しました。約90名の参加があり、大学、民間、研究機関の11施設から、それぞれの施設の活動状況、中性子利用例などが報告されました。中性子は、物質・材料研究にとどまらず産業界の利用の需要が増し、中性子源の効率的な運用の観点から、研究交流、人材育成、人材交流などが重要な時期になってきていることが認識されました。
※日本加速器駆動中性子源協議会
■J-PARCハローサイエンス~J-PARCで活躍するちょっと変わったエレクトロニクス装置~
(3月22日、東海村産業・情報プラザ「アイヴィル」)
「スマートフォンなどのエレクトロ二クス装置は今や私たちの身の回りに溢れ、あまり意識されていません」とハドロンセクションの内田智久氏は切り出し、さらに、「J-PARCでも膨大なエレクトロニクス装置が活躍している中で、物理実験などを行う研究者から求められる性能の装置は市販されていません」と続けました。それぞれの装置は、使用場所の放射線環境、粒子測定検出器、膨大なデータ量、そしてデータ処理速度などから、高度な製作技術が必要です。内田氏らKEKのエレクトロニクスシステムグループ(Esys)は、そうした"ちょっと変わったエレクトロ二クス装置"の開発を担っています。講演後、「加速器実験におけるエレクトロニクス装置の重要性が分かりました」との感想や多くの質問、さらに講演のリクエストがありました。
■J-PARCハローサイエンス~"エネルギー へんし~~ん!"~開催(3月27日、西東京市)
3月27日、「創造的思考の工房チビッ子アトリエ」で、坂元眞一科学コミュニケーターが科学実験教室を開催、"エネルギー へんし~~ん!"の魔法の数々を披露しました。エネルギーは、電気、光、熱、運動など様々な形態があり、私たちはその姿を変えることで生活に活かしていること、また、同じように光る白熱電球とLED電球でも、その表面の温度を測ると大きな差があることからエネルギー変身の違いが分かること、などを分かりやすく説明しました。参加した小学生や父兄は、木を擦り合わせて熱を発生させる"火起こし器"にてこずりながらチャレンジし、クリップを使った世界一簡単なモーターを工作して、エネルギーの変身を体験しました。また、銅と亜鉛の板をレモンに差し込むと電球が光る実験にはビックリ?! 皆、科学を楽しく身近に感じることができた様子でした。
■ご視察者など
4月15日 文科省 科学技術・学術政策局 角田喜彦 科学技術・学術政策総括官
同局 政策課 小林洋介 企画官
同局 研究開発基盤課 量子研究推進室 對崎真楠 室長補佐 他
■加速器運転計画
4月下旬の運転計画(先月号でお知らせの計画に変更有り)と、5月の運転計画は次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。