中高生11名が世界最高強度の加速器J-PARCでミュオンビーム実験を実施
加速キッチン合同会社
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター
2026年6月20日(土)〜21日(日)、大強度陽子加速器施設 J-PARC(茨城県東海村)の物質・生命科学実験施設(MLF)ミュオンD1エリアにおいて、加速キッチン合同会社の探究支援を受ける中高生11名が、自ら立案した5つのテーマでミュオンビーム実験に挑み、すべての実験を無事に実施しました。中高生による J-PARC でのビーム実験は、世界初として実施した昨年(2025年5月・4名/3テーマ)に続く2回目で、参加者・テーマともに大きく規模を拡大しての開催となりました。
実験を行うD1ビームラインを見学する中高生
概要
J-PARC(茨城県東海村)は世界最高クラスの大強度陽子加速器施設であり、中性子・ミュオン・ハドロン・ニュートリノなど多様な量子ビームを生み出しています。これらのビームは、素粒子・原子核物理学から物性物理学、化学、材料科学、生物学まで、幅広い研究に利用されています。加速キッチンは、中高生に簡易的な検出器を提供し、自宅での放射線・宇宙線観測をこれまで300名以上支援してきました。今回は、支援している中高生からミュオンビーム実験の提案を募り、採択された5課題(11名)が6月20日〜21日にD1エリアで実験に臨みました。参加した中高生は、1日目に日本原子力研究開発機構(JAEA)のJRR-3(研究用原子炉)の関連施設を見学し、続いてミュオン科学実験施設(MUSE)のビームラインで見学・実験の準備を進めました。
JRR-3見学 |
D1ラインで検出器の設置場所を確認する中高生 |
2日目には5課題それぞれの提案実験を行い、必要なデータを収集することができました。放射線管理区域内での検出器設置等の作業は放射線業務従事者登録をしている大学生・大学院生スタッフによって行われ、中高生は施設内の会議室から遠隔でデータ収集を行いました。
検出器の動作確認する中高生 |
D1ラインで装置準備をする学生スタッフ |
参加中高生の実験内容
課題①:ミュオンの速度測定に基づく運動量との関係の考察
川道かのんさん(名古屋大学教育学部附属高等学校1年)、淺野颯良さん(同 高等学校 3年)
昨年に続く2年連続の参加です。昨年行った、2台の検出器の間をミュオンが飛ぶ時間(飛行時間)から速度を測定する実験に、計測方法を工夫・改善してより高い精度で挑みました。昨年度のJ-PARCの実験結果は成果発表で高く評価されています。
課題②:QuarkNet検出器によるミュオンの速度測定
片岡奈津希さん・中馬ひかりさん・行廣瑞希さん(女子学院高等学校1年)、今野真帆さん・内藤莉子さん(女子学院中学校)
女子学院中学校・高等学校では、QuarkNet(アメリカ)提供の高速なデータ収集回路を有する検出器を使って、宇宙線の速度を測る実験を校内の天文ドームで行っています。今回のJ-PARCのビーム実験では、この検出システムを用いて決められたエネルギーのミュオン速度測定を行いました。
ミュオンの速度測定を行う課題①と課題②の検出器 |
課題③:磁場中でのミュオンの軌道曲率測定による運動量・速度の評価
入山哉太さん(攻玉社高等学校 2年)
入山さんは自宅でネオジム磁石と放射線検出器を使って、β線の曲率からのエネルギー推定に取り組んでいます。J-PARCでは、あらかじめエネルギーが定められたミュオンビームを磁石で曲げ、その曲率から運動量と速度を求める実験に挑みました。
課題④:ミュオン入射角度による検出感度の評価
濱本夏芽さん(茨城工業高等専門学校 3年)
濱本さんは自宅で宇宙線と太陽活動の関係を測定しており、この宇宙線観測で用いる検出器の角度による検出感度の評価を、J-PARCのミュオンビームで検証しました。濱本さんは「トビタテ!留学JAPAN」(官民協働海外留学支援制度)の今年度の派遣留学生に選ばれており、複数の国の学校や研究所などに赴いて、宇宙線観測用の検出器の設置や現地でのワークショップを実施する予定です。
ネオジム磁石によるミュオンの偏向を測定するためミュオンビームに垂直な方向にスキャンを行う課題③の検出器と、ミュオンの入射角度による感度を評価するために検出器を回転しながら測定を行う課題④の検出器 |
課題⑤:気温が検出器に与える影響
土屋百花さん(多摩科学技術高等学校 2年)、八反地由奈さん(共立女子高等学校 1年)
土屋さんは太陽活動と宇宙線の関係を、八反地さんは宇宙線と気象の影響の関係を自宅で観測しています。J-PARCでは検出器を保冷剤やカイロで温度変化させ、センサー温度が検出性能(光センサーSiPMの感度)に与える影響を調べました。
検出器に携帯カイロを用いて高温状態でのミュオン測定を行う課題⑤の検出器 |
今後の中高生の活動・成果発信
J-PARCで実験を行った中高生11名はこれからデータ解析を行い、得られた成果を学会や論文などで公表する予定です。
支援スタッフ
加速キッチン:河野理夏子(名古屋大学 博士課程1年)、中川鈴彩(総合研究大学院大学 5年一貫制博士課程2年)、柳澤祐太郎(東北大学 修士2年)、能勢千鶴(東北大学 博士課程1年)、貫輪美博(東京科学大学 学部2年)、田中香津生(代表)
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所(J-PARCセンター物質・生命科学ディビジョン):梅垣いづみ 助教、西村昇一郎 特別助教
参考:昨年度の実験
プレスリリース(2025年5月):https://j-parc.jp/c/press-release/2025/05/23001516.html
用語の説明
大強度陽子加速器施設(J-PARC)
高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われています。J-PARC内のMLFでは、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっています。
加速キッチン
加速キッチンは宇宙・素粒子分野を自分たちの力で探究できる世界をつくることを使命として、理工学系や様々な分野の大学生・大学院生を中心として活動しています。この活動は徐々に広がり現在では世界でも最大の素粒子探究ネットワークとなりました。素粒子を測定してその極小の世界の性質を調べたい中高生のために安価で手軽に使える素粒子検出器を配布し、研究者や様々な市民科学プロジェクトと中高生をつなぎ、世界中の研究者や中高生と共同研究をするきっかけを提供しています。
https://accel-kitchen.com/
ミュオン科学実験施設(MUSE)
MUSEは、J-PARCのMLF内にある世界最先端のミュオンビーム実験施設です。高強度のミュオンを用いて、物質内部の構造や磁性、超伝導などを非破壊で調べることができ、物性物理や材料科学、生命科学など幅広い分野で利用されています。
https://www2.kek.jp/imss/msl/
