トピックス

2026.01.30

J-PARC News 第249号

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■ 受賞

 日本放射線安全管理学会 令和6年度技術賞

 安全ディビジョンの坂下耕一氏、荒川侑人氏、増山康一氏、佐藤浩一氏、関一成氏、春日井好己氏及び総合科学研究機構(CROSS)の石井哲郎氏が、日本放射線安全管理学会 技術賞を受賞しました。
 J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のビーム運転に伴い、ホットセル内の空気は中性子により放射化され、11C、13N、15O等の短寿命核種が生成されます。これらの核種は、崩壊形式が同じであることから測定による区別が難しく、これまで生成核種の種類及びその濃度は、計算による評価に限られており、海外の同様の中性子核破砕源施設においても、精度よく測定されていませんでした。
 このような状況の中、市販の測定器を用いたシンプルな測定方法とモンテカルロ法による簡便なモデル計算を組み合わせることで、短寿命核種の濃度を精度良く評価することに成功しました。さらに、本手法はシンプルな評価方法ながら、確実な放射線管理に資するものであり、その有用性が高く評価され、今回の受賞に至りました。

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■ プレス発表

(1)画素数を従来から1000倍アップ!超伝導状態で4億画素の撮像に成功(12月18日)

 超伝導検出器は微弱な信号を高い感度で検出できるため、天文学や医療などさまざまな分野で利用されており、特にイメージングへの応用研究が盛んに行われてきました。しかし、イメージング素子の大画素化には、素子全体を極低温に冷却する、ピクセル数を増やしピクセルの均一性を保つ、一つの線に複数の信号を運ばせる信号多重化回路技術、などが課題となっていました。
 本研究では、新しい原理に基づく超伝導検出器の電流バイアス運動インダクタンス検出器(CB-KID)と、30 ピコ秒(=10-12秒)の高分解能の時間デジタル変換器(TDC)を装備した読み出し回路を開発し、4億画素のイメージングの実証に成功しました。
 今後は高画素化と30ピコ秒の時間分解能を活かし、天文学、量子情報通信、生命科学、医療など幅広い分野での応用が期待されます。さらに、30ピコ秒から30秒と12桁にわたり高精度に追跡できる機能が装備されていることから、新しい計測・解析手法が開拓される可能性があります。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2025/12/18001679.html

 

 

(2)\冷やしても電子のスピンは凍りつかない?/
 氷のような乱れによって電子のスピンが低い温度でも揺らいでいる状態を発見
 -電子スピンがもつれながら揺らぐ機構の解明に期待-(1月19日)

 温度が下がると物質が結晶化するのは、原子や分子が整列するためです。しかし、氷ではH2O分子の向きを変えてもエネルギーが変わらない状態が数多く存在するため、固体であっても分子の向きが乱れています。これと似たことが電子の量子スピンでも起こり、乱れを解消することでエネルギーを得するために電子のスピンがペアを組んで磁性を失う特異な状態(ランダム・シングレット状態)があるのではないかと考えられ、探索されてきました。
 本研究では、マグネシウムとチタンを含むスピネル型酸化物について、比熱測定、核磁気共鳴測定、英国ラザフォードアップルトン研究所および J-PARC MLFの汎用µSR実験装置「ARTEMIS」でのミュオン・スピン緩和測定、そして同じくMLFの高強度全散乱装置「NOVA」による中性子PDF解析を行いました。この結果、チタン原子の並びが氷の様に乱れている時、ランダム・シングレット状態が生じることを突き止めました。
 今回の実験から、原子の配置や種類に乱れがあっても、電子スピンがシングレット状態を形成することが実証されました。シングレット状態とは量子スピンがもつれながら揺らいでいる状態であり、それが安定化するメカニズムに関する知見は、量子コンピュータなどに応用される可能性も期待されます。さらに、低温で物質がなぜ凍りつくのか、凍りつかなくなるのかという根本的な問いに対する理解が深まると期待されます。
 なお本研究で測定された試料の結晶構造解析ではKEKの放射光実験施設が利用され、KEK物質構造科学研究所のもつ4つの量子ビーム(中性子、ミュオン、放射光、低速陽電子)のうち3つを組み合わせた連携利用研究の成果であると言えます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/01/19001714.html

 

 

■ J-PARCハローサイエンス「J-PARCニュートリノビームが宇宙観測に役立つ?! 」(12月19日)

 素粒子原子核ディビジョンの日野陽太氏が、加速器で作ったニュートリノを使って、宇宙の歴史を調べる研究について紹介しました。
 宇宙にある星がその一生を終えるとき、「超新星爆発」という大きな爆発を起こし、強い光とともに大量のニュートリノが放出されます。宇宙の長い歴史の中で、無数の星が寿命を迎え、爆発し、そのときに生まれたニュートリノは「超新星背景ニュートリノ(DSNB)」と呼ばれて、今も宇宙全体を満たしています。DSNBを観測することができれば、宇宙で星がいつ、どれくらい生まれてきたのかを知る手がかりになります。
 しかし、地球に届くニュートリノには、大気中で自然に発生する「大気ニュートリノ」も混ざっています。この大気ニュートリノが水分子中の酸素とぶつかると、DSNBとよく似た反応が起こるため、宇宙から来たニュートリノだけを見つけるのは難しいのです。
 そこで役立つのが、J-PARCのT2K実験で人工的に作られるニュートリノです。大気ニュートリノとエネルギーが近く、しかも性質が正確にわかっている人工ニュートリノを使うことで、背景のノイズを詳しく調べ、不要な信号を取り除くことができます。
 現在行われているSK-Gd実験では、T2K実験のデータを活用し、世界で初めてのDSNB観測を目指しています。人工ニュートリノによる背景事象の解析精度の向上によって、過去の星が放ったニュートリノをとらえる可能性が高まっています。

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■ J-PARC出張講座

(1)東海村立中丸小学校(12月16日)

 加速器ディビジョンの諸橋裕子氏、広報セクションの宇津巻竜也氏が講師となり「真空」をテーマに、中丸小学校理科クラブからの依頼により科学実験教室を行いました。児童たちは、真空デシケーターの中で「風船やマシュマロはどうなる?」「お湯や炭酸水はどうなる?」などの様々な実験を通し、楽しみながら真空や大気圧の力への理解を深めました。また、J-PARC加速器内では人工衛星の高さ(上空約4万km)と同じ程度の真空状態を作り出していることなども紹介しました。
 最後に空気(大気圧)の超強力パワーを体験できる「真空砲」の実験では、大きな音とともにピンポン玉や缶が破裂すると、驚きとともに歓声が上がりました。

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(2)香川高等専門学校 詫間キャンパス(12月18日)

 香川高等専門学校において、加速器ディビジョン 大谷将士氏が「ミクロの世界を見る加速器のしくみ」と題する講演を行いました。
 加速器の原理から、産業・医療といった広い分野での応用利用についての紹介や、最新の技術開発等について紹介しました。参加者から、「加速器の具体的な製造方法や世界各国と日本との加速器の比較も聞いてみたい」という感想を頂きました。

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(3)茨城工業高等専門学校(12月24日)

 茨城工業高等専門学校の化学・生物・環境系3年生を対象としたJ-PARCの紹介セミナーが開催されました。物質・生命科学ディビジョンの柴崎千枝氏とCROSSの阿久津和宏氏が登壇し、37名が聴講しました。
 はじめに阿久津氏より、J-PARCの概要及び科学技術の重要性について紹介がありました。また、研究現場では多様な専門分野の人材が連携して研究を進めている様子や、自身のキャリアを通じて研究機関で働く魅力と幅広い進路の可能性について語りました。続いて柴崎氏は、自身の研究者としての歩みと、現在取り組んでいるタンパク質研究について紹介しました。J-PARCは素粒子や無機材料研究のイメージが強い施設ですが、生命科学研究も活発に行われていることが説明されました。
 質疑応答では、「研究員になるための進路」や「就職に有利な資格」など、将来を見据えた質問が寄せられました。また、セミナー後のアンケートには、近隣にこのような世界的な研究施設があることの驚きや、研究内容への関心、就職先としての興味など、前向きな感想が多く見られました。
 本セミナーが、学生の皆さんが将来の進路を考えるうえでの参考となれば幸いです。

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■ 加速器運転計画

 2月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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J-PARCさんぽ道 66 -真冬の薄(ススキ)-

 1月23日、近くの水戸市では最低気温氷点下6.3℃を記録しました。写真はその当日、J-PARC研究棟の駐車場と道路とを分ける狭い埋め込みに生えているススキを撮影したものです。葉はすっかり白くなり垂れ下がっていますが、茎はまだ勢いよく伸びています。そして、茎が支える穂の先はかなりのボリュームがあります。近くで見ると、穂は綿毛に覆われ、その中にはびっしりと種子が詰まっています。
 ススキは多年草で、春、赤い穂が顔を出し、中秋の名月の頃には花が咲き、穂が最も美しくなります。通常ならば秋に実を結び、風に乗って種子が運ばれますが、今シーズンはこのように今頃になってもまだ種子が飛び散っていないススキがあります。
 ススキは地下茎と種子で繁殖します。地下茎は近くの仲間を増やし、種子は遠くへ自分たちの遺伝子を運んでいます。去年の長く暑い夏を乗り切り、この日の極寒と強風に耐えながらまだ種子を蓄えているススキたちは、どんな戦略を講じているのでしょうか。

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