LINAC

まずは加速器の基本原理から

「加速器」とは、荷電粒子(電気を帯びた、陽子や電子などの原子核や素粒子)を加速する装置です。

荷電粒子を加速するには電気を使います。2枚の電極を用意し、それぞれ+と-の電気を帯びさせます。その2枚の電極間に、例えば+の電荷を持つ水素イオン(陽子)を入れると、-電極の方に引きつけられ飛んでいきます。すなわち、負の電場によって加速されます。電極の中央に穴を開けておくと、(多少電極に引っかかってしまいますが大部分の)陽子は穴から外に飛び出るでしょう。この時電極の電位差がVなら、陽子の運動エネルギーはeVを得ています(eは電気素量)。

加速器の原理

この装置とほぼ同じ、ただし粒子源は無くして電極のみとしたものをもう一つ並べ、先ほど飛び出た粒子を+電極の穴を通してやると、再び-電極の方に向かって加速されそうな気がします、これを繰り返すと、どんどんと速度が上がるように思えます。が、そうは問屋がおろさないのです。

ここで一つ問題が発生します。最初の-電極を通過したあと、次の+電極までの空間を飛行している間は電場の向きが先ほどとは逆になってしまいます。よって粒子は減速してしまい、+電極に到達した時には速度がゼロに戻ってしまいます。これでは加速・減速器です。

そこで、

  • 電圧は交流にする(振幅はV(より少し大きい))
  • 空間の構造を工夫し電場のある空間と電場のない空間が交互にくるような構造にする
  • 交流電場の位相を、粒子が電場のある空間を通過する時に加速する向きに合わせる

という工夫がなされました。こうすることで、粒子は電場のある空間を飛行する時だけ、Vの電位差を感じて加速されます。この空間構造が多数あり、例えばN個並んでいたら、合計NVの電位差を感じでNeVの運動エネルギーを得ることができます。この空間の構造を持つ装置を加速空洞と呼びます。加速空洞を多数並べたものが、直線型加速器LINAC(リニアック)です。

リニアックとシンクロトロン

リニアックは、加速空洞を多数直線状に並べ、長距離に渡って粒子を加速していく直線型加速器(Linear Accelerator)です。多くの粒子(大電流)の加速が可能ですが、各加速空洞が一つの粒子を1回しか加速しないため、大きな運動エネルギーを得るには加速空洞を数十〜数百台、力技で並べる必要があります。
一方、1回加速した粒子の軌道を曲げて円運動させ、ぐるっと1周させてもう一度同じ加速空洞の入り口に戻す事ができたらどうでしょう。戻ってくるタイミングを合わせれば、そして何度も通過させるだけでも、どんどんエネルギーを上げる事が可能です。運動する荷電粒子の軌道を曲げるには磁場を使うのが簡単です(フレミング左手の法則)。そのための電磁石「偏向電磁石」を粒子の軌道に沿って円を描くように置きます。このような加速器は「円形型加速器」と呼ばれます。また、円運動の軌道を一定に保つためには、粒子のエネルギーの上昇に伴って生じる粒子質量の増加に合わせて(シンクロさせて)磁場の強さを強める必要があります。電磁石を用いているのは、磁場を変化させる必要があるためです。そこで、この種類の円形型加速器は「シンクロトロン」と呼ばれます。シンクロトロンは高いエネルギーを得ることは得意ですが、大電流の加速には向いていません。また高いエネルギーになると粒子を曲げる事が難しくなるので円形のリングの曲率が小さく、すなわち巨大なリングが必要になります。また放射光の問題も生じます(詳細は省略します)。

J-PARCのリニアック(線形加速器)

リニアックでは、水素ガスから負水素イオンを発生させ、そのエネルギーを400MeVに加速します。現在は25Hz(将来計画では50Hz)の繰り返しでパルス運転され、400MeVまで加速された時点で、3GeVシンクロトロンへのビームラインへ導かれます。将来計画では、ADSへのビームラインとの2つに分岐し、ビームは交互に振り分けられそれぞれ25Hz運転になる予定です。
負水素イオンは生成時はプラズマで、最初の加速電圧は50kV、つまり運動エネルギーは50keVと極めて遅いものです。このビームを加速空洞を通し加速させつつ塊(バンチ)に加工します。この時、加速に伴って速度(運動量)が大幅に変化するので、それぞれのエネルギーで最適な加速方式を取る必要があります。本リニアックでは、エネルギーの低い方から順次、

  • IS(Ion Source : 負水素イオン源) : 50keV
  • RFQ(Radio Frequency Quadrupole Linac:高周波四重極型リニアック) : 50keV→3MeV
  • DTL(Drift Tube Linac:ドリフトチューブリニアック) : 3MeV→50MeV
  • SDTL(Separated-type DTL:機能分離型DTL) : 50MeV→191MeV
  • ACS(Annular-ring Coupled Structure linac:環結合型リニアック) : 191MeV→400MeV

という構成でDC加速と4種類の空洞加速方式を使用しています。

リニアックでは、大電力の高周波電磁場を加速空洞に供給し、発生した電場を利用して加速します。加速空洞内やビーム輸送ダクト内は、気体分子とビームとの衝突を避け、気体分子による放電を防ぐために高真空の状態となっています。また、同じ符号同士の荷電粒子はお互いに反発しあいます(クーロン力)。そこで細いダクト内を発散しないよう、集束させながら通す必要があるので、ビーム集束用の電磁石(四極電磁石)を周期的に配置しています。

負水素イオン源負水素イオン源

高周波印加により水素プラズマを生成し、陽子に2個の電子がついた水素化物イオン(負水素イオン)を50kVの直流電圧で引き出し加速します。効率の良いプラズマの発生のためにセシウムガスが添加されます。

RFQ外観RFQ外観

Radio Frequency Quadrupole Linac装置です。水素化物イオンを3MeVまで加速します。銅色のパイプは高周波電場を伝える導波管です。

RFQ内部RFQ内部

RFQ内部は超精密機械加工技術により波打つ形状に加工した4つの電極が十字に配置されています。高周波をかけると四重極電場と進行方向電場の両方が生じ、水素化物イオンビームの塊は中央の隙間を加速して行きます。

 DTL外観DTL内部

無酸素銅のタンク内部に吊るされた「でんでん太鼓」のような物体の中身は四重極電磁石です。ビームバンチは太鼓の中央の穴の電場の無い空間を飛行する時は磁場によって収束(発散)し、太鼓と次の太鼓の間を飛行する瞬間に高周波電場を受け加速されます。

リニアックのビームの構造・長さ

リニアックでは、粒子の加速に高周波電場が用いられます。 粒子は高周波電場が作る進行方向の安定領域(収納できる空間という意図からバケツと呼ばれます)の中でバンチと呼ばれるひと塊の集団となって加速されます。 324MHzという高周波の電場でビームを加速するために、ビームは "Micro pulse"と呼ばれる構造をしており、3.1 ナノ秒ごとに加速されます(図1)。下流に続く3GeVシンクロトロン加速器(RCS)では二つのバケツを加速リング中に持つように設計されています。リニアックのビームはRCSのバケツに対応する様に、"Micro pulse"を出したり止めたりしています。バケツの中に入ることのできるビームの長さは"Width"と表記し、物理的な量としては進行方向の長さですが、速度を加味して時間で表現しています。 J-PARCではできるだけ多くの粒子を加速できるように、RCSの1つのバケツに何度も繰り返してlinacからのビームを入れます(図1: LINAC Beam(macro pulse))。 RCSの運転周期は25Hzですが、RCSの1周期の開始時に500μs程度以下のmacro pulseを40msごとにlinacからRCSへ送っています。

高周波電場

パルス間引きによるビーム強度の変更


図1の"intermediate pulse(中間パルス)"のようにRCSのバケツに合わせてlinacのビームをon/offする技術を使い、2つあるバケツのうちの片方だけにビームを入れRCSで1バンチのみで加速をすることも可能です。加速器の実験ではビーム強度が低い方が望ましいときがあり、そういった場合はThin_Ratioを小さくし、RCSのバケツへビームを入れる頻度を下げます。Thin Ratioが同じ16/32でも1バンチ加速と2バンチ加速では違いが生じます(図2)。同じ粒子数の陽子を加速する場合でも、1バンチにして密度を高くした時と2バンチにして密度を低くした時で、ビームの振る舞いが変化する為、必要に応じてこれらを使い分けます。

パルス間引きによるビーム強度の変更

フォトギャラリー

リニアック地上部

クライストロンギャラリー

少し高い位置からのクライストロンギャラリー

機器を収めたラックがぎっしりと並んでいます。

ラックと制御機器

ラックと制御機器

ネットワーク機器、タイミング機器、高周波の制御機器等が収められています。

クライストロン

クライストロン

加速のための高周波電力を作ります。

クライストロン出力部

クライストロン出力部

クライストロンから高周波電力を取り出します。

電力制御用ラック内部

電力制御用ラック内部

クライストロンからの出力を管理しています。

4極電磁石電源

4極電磁石電源

ビーム収束用4極電磁石の電源装置です。

制御用ネットワーク

制御用ネットワーク

すべての機器は中央制御室で操作されますが、制御指令を中継しています。

リニアック地下部(加速器トンネル)

負水素イオン源1

負水素イオン源2

負水素イオン源

J-PARCの加速器群の先端に位置し50keVの水素化物イオン(負水素イオン)ビームを作ります。

高周波4重極型linac (RFQ)

高周波四重極型linac (RFQ)

イオン源からの50keVの負水素ビームを3MeV(光速の8%)まで加速します。

RFQ - DTL間のビーム輸送路

RFQ - DTL間のビーム輸送路

ビームを測定したり形を整えたりする機器が入っています。

ドリフトチューブlinac (DTL)

ドリフトチューブlinac (DTL)

RFQからのビームを50MeV(光速の30%)まで加速します。

機能分離型ドリフトチューブlinac(SDTL)

機能分離型ドリフトチューブlinac(SDTL)

DTLからのビームを191MeV(光速の53%)まで加速します。

SDTLの収束電磁石

SDTLの収束電磁石

青色の電磁石が収束電磁石です。SDTLのタンクの間に設置されビームの収束のために使われます。
二個で収束系の単位を構成しています。