プレスリリース

2026.05.13

地球の外核に大量の水素が存在する可能性
- 世界初、液体鉄中の水素量をその場観察で直接決定 -

国立大学法人 東北大学
国立研究開発法人 日本原子力研究開発機
J-PARCセンター
一般財団法人 総合科学研究機構
国立大学法人 京都大学

発表のポイント

 世界で初めて、液体鉄中の水素量を高温高圧条件下で「その場測定」することに成功しました。
 今回得られた液体鉄中の水素の溶解量から計算すると、地球の外核には現在の海水に含まれる全水素量の70〜85倍が存在し得ると推定されます。
 液体鉄中に取り込まれた水素が、長年の謎であった地球外核の密度不足の半分以上を説明できる可能性が示唆されました。

概要

  地球の中心にある核は、主に鉄でできていますが、その密度は純粋な鉄よりも低いことが知られています。これは、核の中に鉄より軽い元素が混ざっているためであり、その候補のひとつとして「水素」が考えられています。これは、水素は宇宙に豊富に存在し、高圧下では鉄と結びつきやすい性質を持つためです。地球の核にどれだけ水素が含まれているかを知ることは、地球の成り立ちを理解するうえで非常に重要です。
  東北大学大学院理学研究科の高橋直生大学院生、坂巻竜也助教らの研究グループは、大強度陽子加速器施設J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)の超高圧中性子回折装置「PLANET」を用いた中性子実験により、高温高圧下で液体鉄に溶け込む水素の量を世界で初めて直接的に決定することに成功しました。本研究は、地球の核がどのように形成され、どのような化学組成を持つのかという長年の謎に対し、新たな手法で強力な証拠を提供したものです。
本研究成果は、日本時間2026年5月11日18時に英国の国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

詳細な説明

研究の背景

  地球の中心にある核は主に鉄でできていますが、その密度は高温高圧下の純粋な鉄よりも低いことが知られています。この密度不足の原因として、鉄より軽い元素が混ざっていると考えられており、その有力候補のひとつが「水素」です。これは、水素は宇宙に非常に多く存在し、また高い圧力のもとでは鉄に溶け込みやすくなるためです。
  地球の核にどれだけ水素が含まれているかを知ることは、地球の成り立ちを理解するうえで重要です。しかし、水素は高圧下でしか鉄に溶け込まないため、圧力を下げるとすぐに逃げてしまい、常温常圧下でその量を調べることができないために、液体の鉄に含まれる水素の量を直接測ることはこれまで困難でした。

研究の内容

  今回の研究では、J-PARC MLFの超高圧中性子回折装置「PLANET」において、中性子イメージングという手法を用い、水素が溶け込んだ液体鉄(FeHx)を高圧・高温条件下で観察することで、液体鉄に含まれる水素の量を世界で初めて直接的に決定することに成功しました(図1)。
  実験では、圧力3.4 GPa(3万4千気圧)・温度1400 K (1127℃)という条件で水素が溶け込んだ液体鉄を作り、中性子の吸収量から鉄に含まれる水素量を精密に計算しました。その結果、液体鉄には 重量濃度で0.17 %(0.17wt.%)の水素が溶け込んでいることが明らかになりました。
  地球が形成される初期には、無数の微惑星や隕石の衝突、温室効果による高温化によって地表が溶けた「マグマオーシャン(注1)」が存在していたと考えられています。このとき、鉄の液滴はマグマの中を沈みながら周囲の物質と反応し、最終的に地球の中心へと集まって核を形成しました。最近の研究では、原始地球が太陽系の水素に富んだガスを取り込み、マグマオーシャンに大量の水素が溶け込んでいた可能性が指摘されています。今回の結果は、そのような環境で液体鉄が大量の水素を取り込みながら中心へ沈んでいったことを裏付けるものです。
  今回得られた水素の溶解量をもとに、地球の核にどれだけの水素が含まれているか推定したところ、外核には現在の海洋 (H2O) の水素の70〜85倍、内核には1.9〜2.7倍が含まれうることが分かりました。これは、水素が外核の密度不足の半分以上を説明できる可能性があることを意味します(図2)。
  地球の核がどのように形成され、どのような化学組成を持つのかは、地球科学の大きな未解決問題のひとつです。今回の研究は、1) 液体鉄に溶け込む水素量を初めて直接的に決定、2) 核形成時に水素がどれだけ取り込まれたかを定量的に推定、3) 外核の密度が低い理由の主要因を説明し得る、という3点で、地球の内部構造の理解を大きく前進させる成果です。

今後の展開

  本研究は、液体鉄でできた地球の外核にどれだけの水素が存在するかという長年の問題に対し、直接的な実験方法で制約を与えました。さらに地球内部の水素循環の理解や他の惑星の核形成プロセスの理解など、幅広い分野へ影響を与える成果です。今後は、より高圧条件下での測定や、水素以外の軽元素との共存効果の解明が期待されます。

謝辞

  本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(課題番号 JP21K18641、JP23K22588、JP24K21563)、J-PARC の物質・生命科学実験施設(MLF)のBL11 PLANETにおけるユーザープログラム(課題番号 2022B0025、2023A0146、2024A0125)の支援を受けて実施されました。

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図1. 中性子イメージング実験の結果
(左)試料セルの中性子透過像。セルの中央に鉄試料(Fe)を配置し、水素源であるアンモニアボラン(NH3BH3)で挟んでいる。加熱に伴いアンモニアボランから放出された水素が鉄中に溶け込むことで、鉄の中性子透過度が減少する様子が確認できる。(右)中性子透過度の温度変化。常圧で安定な体心立方構造の鉄 が水素化して 面心立方構造のFeHx へ相転移すると、透過度は急激に減少する(緑→赤)。その後、水素化鉄が溶融すると、透過度はわずかに増加する傾向を示す(橙→紫)。

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図2. 地球の核形成モデルの概略図
微惑星の衝突・合体を経て原始地球が形成された際、衝突エネルギーによって地表は大規模に溶融し、マグマオーシャンが形成された。マグマオーシャン中では鉄と珪酸塩が分離し、密度の大きい鉄が地球中心へ沈降することで核が形成された。こうした分化過程を経て、現在の地球には地殻・上部マントル・マントル遷移層・下部マントル・外核・内核といった層構造が確立している。 マグマオーシャン底部の温度・圧力条件を仮定し、水素溶解度モデルを適用すると、液体鉄には 0.59-0.70 wt.%の水素が溶解すると推定される。これは 現在の海洋に含まれる水素量の72-87倍の量に相当し、液体鉄への水素溶解を通じて大量の水素が核へ輸送されたことを示唆している。この水素量を核全体に適用し、鉄に対する水素の固相―液相分配係数を考慮すると、外核には0.60-0.72 wt.%、内核は0.30-0.44 wt.%の水素が存在すると見積もられる。今回推定された外核の水素量は、外核の密度不足の約 6-7 割を説明し得ることが示唆される。

用語説明

注1. マグマオーシャン
  惑星形成初期に天体表面が高温でほぼ全面的に溶融し、巨大な"マグマの海"に覆われた状態。惑星が形成される際にほぼ必ず経る"高温・溶融の初期段階"であり、核・マントル・地殻の分化、大気・海の形成など、惑星の基本構造を決める極めて重要なプロセス。

論文の情報

タイトル Hydrogen in the Earth core inferred from neutron imaging and diffraction
著者 Naoki Takahashi*, Tatsuya Sakamaki, Takanori Hattori, Ken-ichi Funakoshi, Hiroshi Arima-Osonoi, Asami Sano-Furukawa, Jun Abe, Akio Suzuki
*責任著者 東北大学大学院理学研究科 大学院生 高橋 直生(たかはし なおき)
東北大学大学院理学研究科 助教 坂巻 竜也(さかまき たつや)
掲載誌 Scientific Reports
DOI 10.1038/s41598-026-49969-z

問い合わせ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院理学研究科地学専攻
助教 坂巻 竜也(さかまき たつや)
 
< 報道に関すること >
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
 
日本原子力研究開発機構
総務部 報道課
 
J-PARCセンター 広報セクション
E-mail:pr-section[at]ml.j-parc.jp
TEL:029 -287 -9600
 
総合科学研究機構中性子科学センター
利用推進部 広報担当
 
京都大学
広報室 国際広報班
 
※上記の[at]は@に置き換えてください。