■ J-PARC News 第20号より       (2006/11) 

●建物建設状況
(1) リニアック棟では、加速器機器などの総合調整試験が10月30日から24時間体制で開始された。3GeVシンクロトロン棟では、11月20日から電磁石関係の通電試験が開始された。3NBTトンネルでは、電磁石へのケーブル接続や冷却水設備の試運転調整を継続中。
(2) 50GeVシンクロトロンのトンネルでは、D工区での電磁石の搬入据付を継続中。また、第2電源棟への電磁石用電源装置の搬入据付を開始した。
(3) 物質・生命科学実験施設では、各階内装工事や建家設備の配線・配管工事及び外構工事などの仕上工事を進めている。また建家内部では、中性子発生源であるターゲットステーション関連機器の据付けや、中性子ビーム遮蔽体の設置工事など実施中。
(4) ハドロン実験施設では、実験ホールの外壁パネル工事や屋根工事などを実施中。またスイッチヤード下流部では埋戻や盛土造成工事を、スイッチヤード内部では電磁石の搬入据付を継続中。ニュートリノ実験施設トンネルアーク部(陽子ビーム導入部)では、トンネル部の盛土造成や内部塗装工事を進めており、ターゲットステーション部では基礎杭打設工事を継続中。

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●耐放射線特性に優れた汎用ゴム材料を開発
 現在建設中のJ-PARC建築資材として、緩衝材・シール用ゴム材料の耐放射線特性の向上を図り、既存の汎用ゴム材料の中で最も良かったEPDM(エチレン・プロピレン・ディエン共重合体)ゴム材料に比較して、その性能が約5倍以上優れたものを早川ゴム株式会社との協力で開発した。高放射線環境下で使用できる材料は一般的には無機材料に限定されていた。また一部の有機材料にも高価だが使用できるものがあった。 しかし、より安価な汎用ゴム材料の適用が可能となれば、コスト面、作業性の面などから大きなメリットとなる。今回、従来のEPDM材料に新しいアイディアに基づく添加剤を加えることで、放射線吸収線量が9MGyを超えても弾性体としての機能および形状を維持するゴム材料を開発し実用化した。このゴム材料は、JISで規定される引張伸び、破断強度、硬さなどの試験項目に加え、建設資材としての必要な工学的試験をクリアし、異種建築物接合部の止水板部材として製品化された。 J-PARCでは、加速器トンネルの 接合部止水・緩衝材に使用しているが、更なる適用範囲としては、加速器冷却水配管の接続シール部や超伝導電磁石などの大型真空装置の気密シール部への適用も有望なため、現在も継続して各種試験を進めている(詳細な技術内容については、平成18年9月15日発行の日本ゴム協会誌2006年9月号を参照願います)。

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●3GeVシンクロトロン(RCS)高周波空胴の1000時間連続通電試験に成功
 J-PARCのリング高周波加速装置は、世界でこれまでにない大電流の陽子ビームを安定に加速するための装置である。加速電圧は、RCSでは450kV、50GeVシンクロトロンで280kVの高い尖頭電圧が必要である。また、その周波数はビームのエネルギーに応じて変化しなければならず、RCSでは0.9MHzから1.7MHzの広い範囲で制御される。このように、広い周波数帯域をカバーし、かつ高電場勾配を実現するため、金属磁性体を使った高電場勾配加速空胴の開発を進めてきた。 金属磁性体コアは、シリカ絶縁体をコーティングした厚さが僅か20ミクロン、巾35mmの薄い金属リボンをバームクーヘン状に巻いて製造される。コアの写真を左下に示す。空胴1台あ たりの加速電圧は最大45kV、消費電力はピークで450kW、平均135kWに達する。これらの電力はその殆どが空胴を構成する18枚の金属磁性体コアで消費される。高周波電源から前述の周波数帯域電流を空胴内の金属磁性体コアに供給すると、コアの電気抵抗であるインダクタンスによって加速ギャップ間に高電場勾配が発生し正電荷の陽子ビームは加速ギャップを通過する度にエネルギーを少しずつ得て加速される。 また、金属磁性体コアの冷却方式としてこれまでの研究開発を経て、水を冷媒として、コアを冷媒に浸し直接冷却する方式を採用した。そのため金属リボンを巻いて製造された金属磁性体コアは、まず低粘度樹脂で真空含浸され、後に防錆のための樹脂コーティングの厚みが管理されたもとで、更に行われる。RCS加速空胴で使用されるコアの総数は200枚におよび、これらは全て数100時間の通電試験を経てインストールする予定である。年間5000時間に達する加速器運転を安全かつ安定に進める上で今回の1000時間連続通電試験の成功は大きな一歩と言える。

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●J-PARC用シンチレーション検出器の開発
 大強度陽子加速器計画における中性子散乱実験施設、特に残留応力解析や粉末回折実験施設に必要な中性子検出器として、英国ラザフォードアップルトン研究所のISISに設置されているものと同タイプのZnSシンチレーション検出器を試作し、原子力機構JRR-3のMUSASIポートで中性子ビーム照射試験を実施した。照射試験では中性子ビームを2×1mmにコリメートし検出器の有感部分に照射した。図1に検出器のチャンネルごとの出力を示す。照射されているチャンネルのみが極めて強く出力されており、コーディングが誤り無く行われており、正常に動作していることが分かる。 また、 図2に中性子ビームの強度を変えて測定した検出器出力と、同じ位置に3He検出器を置いて測定した出力を比較した結果を示す。検出器出力が約3×103kcpsまでの範囲で直線性を有しそれらの出力はほぼ同じであることから、試作検出器の検出効率は3He検出器と同等の43%@1Å(目標は>50%@1Å)の性能を有していることが分かった。以上の結果から、中性子散乱実験施設に求められる中性子検出器の見通しが得られたことが分かる。今後は検出効率をさらに向上させるためのシステムの最適化を行うとともに、一様性の向上を図る。(詳細については日本原子力学会2006年春K02、及び2006年秋の大会E38を参照願います)

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●実機遮蔽体貫通水冷バスダクトの現地据付け
 ハドロン実験施設では、ビームラインに設置される電磁石等に対しての電力供給は放射線遮蔽の関係で通常のラックーケーブル方式ではなく、水冷したバスダクトを遮蔽体コンクリートに直接埋める方式が取られる。電気導体のバスダクト本体はポリイミドで絶縁され、その周辺をさらに鉄枠とコンクリートで覆っている。ポリイミドをコンクリートに直接埋め込むと時間の経過とともに、コンクリートの強アルカリ雰囲気の影響を受けることから、その保護のため鉄のケースで覆っている。実機バスダクトのコンクリートには6本のバスダクト本体が埋込まれ電磁石3台を繋込むことができる。 実機バスダクトはKEKつくばにて最終検査を済ませ、J-PARCへの運搬は2006年11月15日に1回目が行われた。当日は、バスダクト長さが2.5mを4体、3.1mを2体、5mを1体の合計7体がハドロン実験施設の実験ホールに搬入され仮置きされた。2次ビームラインの遮蔽コンクリート部への初回設置は20日までに4体について行われ、残りは今月末に予定される。来年2月には残りの2体が運込まれ、9体全数の設置を終了する計画である。実機バスダクトは遮蔽体壁へ設置の都度、それらの周りにコンクリートが打設され埋込まれる。

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●第8回国際核破砕材料技術ワークショップ
 2006年10月16日〜20日、第8回国際核破砕材料技術ワークショップが米国ニューメキシコ州タオスで開催された。ロスアラモス研究所(LANL)主催、JAEA、KEK等の共催で、参加8ケ国、60名の参加者、発表件数60件となった。冒頭、LANLのCappielloが米国の燃料サイクルへの考え方及び国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想の目指す目標について説明。続いてスイスのMEGAPIE(http://megapie.web.psi.ch/)、米国の核破砕中性子源(SNS)、及びJ-PARC関連について関係者から報告があった。 PSIの核破砕中性子源MEGAPIEは、高エネルギー陽子ビーム照射下での液体重金属ターゲット(鉛ビスマス)と材料の相互作用を試験するためのプロジェクトで、2006年8月に初ビーム、4日後には0.76MWのフルパワーで運転されている。鉛ビスマスの漏れ検知、温度、温度の変化速度や、ビームプロファイル等を常時監視運転している。また、米国SNSでは2006年4月に陽子ビームが水銀ターゲットに打込まれ、現在その後のパワーアップに伴う調整を進めている。 J-PARCからは、2008年12月の施設供用開始に向けたマルチビーム利用施設の建設状況等(他、加速器、照射損傷、鉛ビスマス 技術、水銀ターゲット、モデレータ関連)の報告があった。中国SNSからは固体タングステンターゲットの中性子源施設建設計画が発表された。建設サイトは香港近くのGuangdong州となっている。また、材料課題では、原子の弾き出し損傷数20dpaを越す陽子照射材の機械的特性、短パルスターゲットにおけるピッテング、液体重金属腐食脆化等の報告と議論の他、核データなどの整備に関する議論があった。次回のWSは、2008年10月に日本で開催する予定となった。

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●T2K実験のコラボレーション全体会議
 ニュートリノ振動実験「K2K」はこれまでKEKの加速器で素粒子ニュートリノをつくり、250km離れた岐阜県飛騨市神岡町の地下1000メートルに位置する東京大学宇宙線研究所の5万トン水チェレンコフ検出器・スーパーカミオカンデに打ち込み、ニュートリノの謎を解明する実験として行われてきた。しかし、昨年末12GeV陽子シンクロトロン(KEK-PS)の主リングの共同利用実験への供用が終了し、研究の場は完全にJ-PARCへと引き継がれることとなった。 J-PARCでのこの振動実験は、東海ー神岡間(Tokai-to-Kamioka)長基線ニュートリノ振動実験「T2K」と呼ばれ、50GeV陽子シンクロトンによって大強度ニュートリノビームを作りスーパーカミオカンデに打ち込む、これまでのK2K実験を受け継ぐ実験となる(両施設間の距離は295km)。今回、T2K実験のコラボレーション全体会議が2006年11月9日〜10日にKEKで開催され、約120名(外国人約70名)が参加し、施設整備や実験準備状況の報告、今後のスケジュールなどについて議論が行われた。 国外の参加者からJ-PARC利用への要望が出されたり、また、T2K実験への新たな国・機関の参加の承認なども行われ、実験への参加は12ケ国60機関、約290名となった。10日午後にはJ-PARCの見学ツアーが企画され、約50名(内外国人約30名)が参加し、50GeVトンネル、物資・生命科学実験施設、ニュートリノターゲットステーション土木工事現場などを見学した。

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●「いばらきものづくり交流会 in つくば」
 2006年10月26日〜27日に茨城県主催の「いばらきものづくり交流会 in つくば」が、つくばカピオを会場に開催されJ-PARCを含め92機関が参加し、また、その約2週間前の10月11日〜13日には日刊工業新聞主催の「2006産学官技術交流フェア」が48社・団体、16大学の参加のもと東京ビッグサイトを会場に開催された。いずれのイベント会場でも割り当てられたブースにJ-PARCの全体模型、中性子源とビームラインの模型やパネル等を展示し、大型モニターによりJ-PARC公報ビデオをご覧頂いた。 また、連日J-PARC関係者が交替でブースを訪 れる来場者に模型、パンフレット等を使いながら分かり易く説明を行い好評だった。

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