■プレス勉強会を開催(1月26日)
J-PARCメインリングでは、プロジェクト開始以来20年間の悲願だったニュートリノ実験施設への760kWビームの連続供給に成功しました。電磁石にたまったエネルギーを効率よく回収、再利用することで、これまでと同じ消費電力で約1.5倍のビームパワーを供給しており、大幅な省エネも実現しました。また、T2K実験国際共同研究グループは、ニュートリノ生成装置の増強を行い、単位時間当たり過去最多のニュートリノを生成できるようになりました。J-PARCでは、ニュートリノという素粒子の基本的な性質を調べるT2K実験を行っています。ノーベル賞が相次いで出るなど日本のニュートリノ研究は世界のトップレベルですが、今回のビームパワー向上でT2K実験が大きく飛躍し、それに続く ハイパーカミオカンデ計画に向けて新しい成果を世界に先駆けて出すことが期待されます。
以上の内容は1月17日のプレス発表で紹介されたものです。J-PARCセンターではこれに関するプレス勉強会を開催しました。加速器ディビジョンの五十嵐進氏、素粒子原子核ディビジョンの坂下健氏からの説明と施設見学(中央制御棟、ニュートリノモニター棟、一次陽子ビームライン)を行いました。勉強会で紹介した内容について、後日、新聞等に掲載されました。
詳しくは J-PARC ホームページをご覧ください。
(1)J-PARC加速器、ビームパワーを大幅更新し省エネも実現 -ニュートリノ研究の強力な原動力に-
https://j-parc.jp/c/press-release/2024/01/17001271.html
(2)反物質が消えた謎にニュートリノで迫るT2K実験、飛躍的に測定精度を高める新しい段階へ
-加速器増強による過去最多のニュートリノ生成と新型検出器の初稼働に成功-
https://j-parc.jp/c/press-release/2024/01/17001272.html
■プレス発表
(1)ミュオニックヘリウム原子を使った物理学の基本定理の検証に向けた第一歩
-40年ぶりに世界記録を更新-(12月28日)
KEK、J-PARCセンター、名古屋大学、東京大学らの研究グループは、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)のミュオン科学実験施設(MUSE)のDラインを使って、ミュオニックヘリウム原子の超微細構造の測定精度の世界記録を過去の1.5倍高いものに塗り替えました。これはJ-PARCでパルスミュオンを使った測定手法を世界で初めて確立したことを意味します。
ミュオニックヘリウムは、ヘリウム原子が持つ2つの電子のうちの1つをミュオンに置き換えたもので、自然界に存在しない特殊な原子です。ミュオニックヘリウム原子の超微細構造を精密に測定すると、負の電荷を持ったミュオンの質量が決定できるほか、測定値と理論値を比較して「CPT定理」と呼ばれる物理学の根幹をなす法則の検証ができます。
今回確立した技術はDラインの10倍のビーム強度をもつHラインでも使用可能であり、測定精度がさらに現在の100倍まで向上し、負ミュオンの質量をより正確に測定できます。今後も引き続き、本実験を元にミュオニックヘリウム原子について超微細構造の精密測定を進めていけば、粒子と反粒子の性質の違いが明らかになる可能性があります。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/12/28001262.html
(2)量子磁性体のスピン波寿命を磁場で制御することに成功
-スピン流制御のスイッチデバイスの可能性-(1月11日)
東京大学、KEK、J-PARCセンターらの研究グループは、世界で初めて量子磁性体(RbFeCl3)のスピン波の寿命を制御することに成功しました。
研究グループは、ルビジウムと鉄と塩素からなるRbFeCl3をJ-PARC MLFにあるHRC高性能チョッパー分光器、JAEAのJRR-3のHER分光器及び米国オークリッジ国立研究所のHYSPEC分光器を用いて、様々な磁場下でスピンのスペクトルを測定しました。その結果、磁場がない状態に磁場を加えると、スピンのエネルギーが散逸して寿命が短くなり、さらに強い磁場を加えると再び寿命が長くなります。このことから、量子磁性体のスピン波の寿命は、磁場によってコントロールが可能であると実証されました。
スピン流は絶縁体の中でも存在し、エネルギー損失のない流れとして注目されています。将来的に、室温程度のエネルギーのスピン波寿命を磁場制御可能な量子磁性体が見つかれば、スピン流を制御するスイッチデバイスとなり得ます。より近い視点からは、中性子分光器の進歩により、スピン波寿命の磁場制御の研究は、今後ますます盛んになると期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2024/01/11001267.html
(3)高感度の新型中性子干渉計の開発に成功-中性子の相互作用の精密測定が可能に-(1月13日)
理化学研究所(理研)、名古屋大学、KEK、J-PARCセンター、京都大学らの研究グループは、従来手法を大幅に上回る感度で中性子に及ぼされる相互作用を測定できる、新型中性子干渉計の開発に成功しました。
中性子を利用した干渉計は、その量子性を利用することで中性子による相互作用を精密に測定できるため、物質分析などさまざまな物理実験に利用されてきましたが、ビーム制御の難しさと実験体系の制約から感度向上に限界がありました。
本グループは、反射できる中性子の波長を自在に選べる「多層膜中性子ミラー」を用いた中性子ビームの制御に着目しました。干渉計に必要な4枚のミラーはそれぞれ独立に作成され、実験に応じて柔軟に位置を変更できます。さらに、多層膜中性子ミラーは結晶に比べ幅広い波長の中性子を利用できるので、中性子の利用効率が向上し、測定時間が短くなることで、防振装置など安定化のための仕組みが簡便になりました。
干渉縞の測定実験は、J-PARC MLFで行い、中性子の波長に依存した干渉縞を初めて観測することに成功しました。さらに、繰り返し飛来するパルス状の中性子による干渉縞を時間変化に追随して観測できるようになったことで、観測データから時間に依存したノイズの除去が可能となりました。また利用波長の最適化や装置の大型化など、今後の開発によってさらなる高度化が可能です。
今回の干渉計は、幅広い中性子を利用して波長に対する干渉縞を取得するという、新しい原理で動作します。従来型と比べて飛躍的に感度が向上し、取り扱いが容易になったので、物質分析の高度化、原子核や素粒子の間に働く力の研究や宇宙膨張の謎の解明など、幅広い分野の研究に活用されると期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2024/01/13001268.html
■ハイパーカミオカンデ計画推進協議会開催(2月14日)
第4回ハイパーカミオカンデ計画推進協議会がJ-PARCにおいて開催されました。 ハイパーカミオカンデ計画は、日本をホスト国とする国際協力科学事業であり、スーパーカミオカンデの8.4倍の有効体積を持つ水槽と超高感度光センサーからなる超大型地下実験装置の建設と、J-PARCで生成するニュートリノ数の増加により、宇宙の物質の起源と素粒子の統一理論の解明を目指すものです。
協議会では、ハイパーカミオカンデプロジェクトの進捗状況や予算計画、海外研究機関との協定締結状況などの報告がありました。4年ぶりの現地開催となった協議会では対面で活発な意見交換が行われ、KEKと東京大学のさらなる連携などが確認されました。
協議会終了後の施設見学会では、T2K実験のためにアップグレードしたニュートリノ前置検出器を視察しました。
■J-PARCハローサイエンス『世界の大強度陽子加速器があるのは「アレ」のおかげです!』(1月26日)
今月のハローサイエンスは加速器ディビジョンの原田寛之氏が講師を務めました。
加速器の「アレ」とは何でしょうか。アレは「負水素イオン荷電変換多重入射」のことで、J-PARCをはじめ、世界にある陽子加速器がパワーアップ、すなわち大強度化するためには必要不可欠な方法です。
ビームは主に磁場を使って軌道を曲げたり、収束したりしながら制御します。円形加速器に陽子を蓄積する際、入射粒子が正電荷の陽子ビームだと、既に周回している陽子ビームと同じ電荷をもつため、入射のための電磁石の磁場で同じ方向に曲げられてしまい、どうしても入射回数が限られてしまいます。そこで入射粒子に陽子ではなく負電荷を持つ負水素イオン(陽子に電子が2つ付着したイオン)を使うことで、既に加速器内を周回している正電荷の陽子ビームとは磁場中で逆方向に曲げることができ、スムーズに合流できます。正負のビームが合流した後に、ビームを炭素膜に通過させて負水素イオンの電子を取り除くことで、陽子のみで構成されるビームを作り出すのです。この手法により、周回しているパルス状の陽子ビームにタイミングよく次々と陽子を重ねて入射や蓄積をしていくことができ、世界にある陽子加速器のビームの大強度化を実現しました。
しかし一方で、大強度化の実現によりビームの粒子数が増加したが故の課題もあります。入射部にある機器の放射化や電子をはぎ取る炭素膜へのダメージが増え、装置類の短寿命化が顕著に現れるようになったのです。
そこで現在、われわれJ-PARC加速器グループでは、炭素膜を使わずに電子を取り除く、新たな技術の研究開発を進めています。これは、電子をレーザー照射で狙い撃って剥離させ、陽子ビームを作り出すという方法で、この技術が確立すれば、陽子加速器のさらなる大強度化に拍車をかけることでしょう。今後も加速器の進化とJ-PARCが拓く未来にご期待ください。
■センター長が岡山県立岡山芳泉高等学校で出張授業(1月27日)
「加速器ニュートリノで探る宇宙の謎」と題して、小林隆J-PARC センター長が、出張講座の講師を務めました。1、2年生36名が参加し、参加した生徒からは、「物理学に興味が湧きました」「物質・反物質の性質の違いについて詳しく知りたい」などの感想が寄せられました。
■加速器運転計画
3月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。
J-PARCさんぽ道 ㊸ -早春のJ-PARC研究棟-
J-PARC研究棟の玄関ホールは、要人や国際会議の集合写真を撮影する場所になっています。ここは最上階の4階までが吹き抜けになっていて、ガラス張りの玄関と天井から差し込む日光が、被写体となる人々の顔をまんべんなく自然に照らしているのです。
エレベータが1基ありますが、健康のために階段を上がる人もいます。ここの階段は吹き抜けの内側に張り出していて、空中階段のようです。2階に来ると窓からは一面の松林が広がっています。3階では北に高鈴山を主峰とする多賀山地の頭が見えてきます。4階まで上がると東には太平洋が広がり、北は多賀山地の麓まで見渡すことができます。
2月から3月にかけての東海村はまだ寒さが残る上に花粉が飛び交い、海岸は春一番の影響を直接受ける厳しい季節です。それでも早春の力強い日光は天窓とガラス張りの窓を通して採光され、J-PARC研究棟の吹き抜けの内部から建屋全体を暖め、明るくしています。
◆◇◆ ミュオンにコーフンクラブ 実機製作 (2月18日)◆◇◆
第4回目のミュオン測定器の製作が2月18日に行われました。
東海村歴史と未来の交流館に18名の児童生徒が集まりました。
昨年11月から測定器作りに着手した子どもたち、今回は配線やパネルの取り付けといった完成に向けての最後の作業となりました。子どもたちは専門家や茨城大学の学生のサポートを受けながら作業を続け、ついに測定器が完成しました。
測定器完成後、オシロスコープの電源を入れたところ、無事、宇宙線の信号を見ることができ、子どもたちのから歓声があがりました。また、PCでのデータ取得もうまくいき、画面に映し出された結果を興味深そうに眺めていました。
次回はいよいよ今年度最後の活動となります。古墳のお話を伺い、再度、測定器で宇宙線を観測する予定です。
J-PARC出張講座(授業)のお申し込みについてはこちら
http://www.j-parc.jp/c/information/2023/05/09001153.html
◆◇◆ 2024年1月27日(土)、岡山県立岡山芳泉高等学校 ◆◇◆
「加速器ニュートリノで探る宇宙の謎」と題して、J-PARCセンター長 小林 隆 氏 が、出張講座の講師を務めました。1,2年生36名が参加し、参加した生徒からは、「物理学に興味が湧きました」「物質・反物質の性質の違いについて詳しく知りたい」などの感想が寄せられました。
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■小林隆J-PARCセンター長年頭挨拶
謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
令和6年能登半島地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様にお見舞い申し上げます。被災地の一刻も早い復興を願っています。
昨年は新型コロナウイルス感染症の第5類移行により行動制限がなくなり、J-PARCでは研究活動を本格的に再開することができました。RCS/物質・生命科学実験施設(MLF)は840kWで95%以上という非常に高い運転効率でビームを供給し、MLFの実験では様々な成果を上げることができました。MRは長年取り組んできたアップグレードにより、ニュートリノ施設へのビーム強度が510kWから710kWへ大幅増強に成功しました。
一方、4月と6月にはKEK所掌の施設で火災が発生しました。人身事故には至りませんでしたが、地域を始め多くの皆様にご迷惑、ご心配をおかけしました。この場を借りて改めてお詫び申し上げます。
J-PARCの使命は、素粒子・原子核物理、物質・生命科学などの幅広い分野の研究を発展させ、その起源や多様性にまつわる謎に迫り、人類のQuality of Lifeの向上に貢献することです。その基礎となる、何より重要な安全管理を向上させる努力も続けます。J-PARCの発展は、地域の皆様、世界中のユーザーの皆様、J-PARCに関わるすべての皆様のご理解、ご協力により成り立っています。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
令和6年1月吉日 J-PARCセンター長 小林 隆
■プレス発表
(1)硬くて丈夫なゲル電解質-フレキシブル電池の耐久性向上に期待-(11月25日)
東京大学、JAEA、J-PARCセンター、KEK、科学技術振興機構らのグループは、高分子の相分離現象と伸長誘起結晶化を組み合わせることで、世界最高水準の強靭性と弾性率を示す、硬くて丈夫な電池用ゲル電解質の開発に成功しました。
ゲル電解質は、高分子由来の柔らかさと安全性から、肌や服に貼り付け可能な次世代の「曲げられる」フレキシブル電池の電解質材料として注目されています。このような材料には、充放電に伴う金属結晶の成長が引き起こす電池の短絡を防ぐための硬さと、繰り返しの曲げによる亀裂の進展を防ぐ強靭性を兼ね備える必要がありますが、従来材料ではこの両立は難しいと考えられてきました。
本研究では、材料内部にミクロ層分離構造を形成させることで、金属結晶の成長を防ぐのに十分な硬さを実現しました。さらに、曲げ伸ばしで大きな負担がかかると、高分子鎖が結晶化して硬くなることで、固体・半固体・有機無機複合ゲル電解質の中でも世界最高水準の高い強靭性を実現しました。
世界最高水準の強靭性と弾性率を両立した自己補強ゲル電解質は、高い安全性と耐久性が必要とされるフレキシブル電池の電解質としての応用が期待されます。また、イオン液体などの、よりイオン伝導性の高い溶媒が利用できるため、センサーなど、他のフレキシブル電気化学デバイスに適した電解質のデザインにもつながる可能性があります。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/11/25001245.html
(2)天然素材のセルロースを凍らせるだけ!強い機能性ゲル材料を新たに開発
-凍結によるセルロースの結晶相転移と簡易なゲル合成法を発見-(12月1日)
JAEA、豊橋技術科学大学、東京都立産業技術研究センター、明治大学らのグループは、水溶液凍結時に結晶間に生じるナノ空間で、セルロースの結晶変換が起きることを発見し、さらに簡易な方法で高強度セルロース多孔質ゲル材料の作製を実現しました。
近年、持続可能社会実現のために、再生可能素材であるセルロースを活用した材料開発に関心が高まっていますが、強度や成型性の向上が課題でした。高強度性を発現させる鍵はセルロース分子の構造制御にあります。セルロース水溶液が凍結時に生じる氷結晶の周囲で形成されるナノメートルサイズの凍結凝集層に着目し、木材から抽出される天然に近いセルロースナノファイバーを用いて調べたところ、水酸化ナトリウムとクエン酸を添加すると凍結凝集層中でセルロース分子が化学反応し、従来にない強い三次元構造を持つセルロース多孔質ゲル材料ができることを発見しました。
本研究で開発されたセルロース多孔質ゲル材料は、95%以上の高い空隙率、高い圧縮強度、高い成型性、無害の性質、両親媒性、生分解性の性質を有しており、有害物質の吸着剤や医療材料、二酸化炭素回収剤への応用が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2023/12/01001247.html
(3)集まれ!分子-含水溶液中における疎水性物質の集合状態を観察-(12月14日)
神奈川大学、大阪大学、東京理科大学、KEK、JAEAらの研究グループは、水とテトラヒドロフラン(THF)の混合溶媒中で水の割合を変化させると、発光分子を含む集合体のサイズと集合状態が変化し、それが発光強度の変化と相関することを発見しました。
常温で液体の有機化合物であるTHFは、水と任意の割合で混じります。また、水とTHF混合溶媒中では疎水性有機分子が集合体を形成し、水とTHFの混合比を変化させると溶液の性質が変化することが知られています。しかし、集合状態がどのように変化し、性質の変化に影響を与えるかについての詳細は明確ではありませんでした。
そこで本研究グループは、独自に開発した発光分子を用いて、水-THF混合溶媒中における疎水性発光分子について、含水率を変化させて様々な測定を行いました。その結果、溶媒中の水の体積分率が約50%で「緩い集合体」を形成し、約60%以上で「密な集合体」に変化することが明らかになりました。さらに、集合状態の変化が発光強度と対応していることも明らかになりました。
今回得られた知見に基づき、疎水性分子の集合状態を自在に制御できれば、有機ELや有機レーザーなどの表示・照明デバイスの効率向上や、内服薬を効果的に働く場所へ確実に届けるための技術開発など、広汎な応用が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/12/14001258.html
■J-PARCハローサイエンス「ミュオンを使ったイメージングあれこれ」(12月22日)
物質・生命科学ディビジョンの下村浩一郎氏が、素粒子の一つであるミュオンを使ったイメージング技術を紹介しました。
宇宙から絶え間なく降り注いでいるミュオンは、物を壊さずに中身の様子を透かして見る"イメージング"に利用されています。今までも、火山の内部を調べ噴火の可能性の有無や、エジプトのピラミッドの中に新たな空間を見つける大発見に貢献してきました。
東海村教育委員会、J-PARCセンター等は、今年度からこの技術を使って村内に残る巨大な古墳の調査プロジェクトを立ち上げました。物理学や考古学など文系理系を問わず様々な分野の研究者と、地域の子供たちが一緒になり、古墳とミュオンへの理解を深めながら、その謎に迫っていきます。現在、子どもたちが中心となってミュオンの測定器を製作しており、来年度に古墳の内部の透視を開始する予定です。本プロジェクトの活動の様子は、J-PARCホームページ※でも紹介しています。
今回のハローサイエンスは多くの方のご参加と活発な質疑があり、ミュオンへの関心と期待の高さを改めて感じました。これからもミュオンの活躍に是非ご注目ください。
※J-PARCホームページ トピックス内をご覧ください。https://j-parc.jp/c/topics/
■出張授業
(1)日立市立大久保小学校で出張授業(12月18日)
テーマは「見えない真空を見てみよう」、講師は加速器ディビジョン 神谷 潤一郎氏でした。
日立シビックセンターが日立市内への小学校向けに企画したものの一環です。
(2)東海村立東海南中学校で出張授業(12月22日)
「役立つ素粒子 ミュオン」をテーマに、ミュオンセクション 竹下聡史氏 が出張講座を行いました。中学1年生の皆さん178名が参加し「ミュオンについて興味わきました!」、「今度調べてみたいです!」など感想が寄せられました。
■加速器運転計画
2月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。
J-PARCさんぽ道 ㊷ -東海村の冬の風物詩-
J-PARCからスーパーカミオカンデに向けて打ち込むニュートリノの数は膨大な数を誇ります。東海村は世界最大のニュートリノ生産地と言えるでしょう。
もうひとつ、この地域が有数の生産地として誇れるものが干し芋で、隣接するひたちなか市、那珂市を含めると日本の生産量の9割以上を占めています。火山灰を含んだ水はけのよい赤土の土壌、ミネラルを含んだ潮風、雨の少ない気候は、サツマイモ作りにも干し芋作りにもピッタリです。干し芋作りは、蒸す、剥く、切る、干すという極めてシンプルな作業で、その分ごまかしがききません。春先、前の年に土の中に保管していた種芋を掘り起こして苗床を作り、5月に苗植え、10月に収穫、12月からの干し芋づくりを始め、今の時期に出荷が最盛期を迎えます。
J-PARCのスタッフの中にも干し芋を作っているご実家が何軒かあります。高級品のイメージがある干し芋ですが、形の整っていない切れ端などは「セッコウ」と呼ばれ、手ごろな価格でごくわずかな量が出回ります。
東海村は世界最先端の研究を行っている一方で農業も盛んな村です。一年で最も寒いこの季節、噛むとすぐ、自然な甘さが口の中いっぱいに広がり、身も心も温かくなる干し芋は、この地で暮らす人々のささやかな楽しみとなっています。
◆◇◆ ミュオンにコーフンクラブ 測定器の組み上げ活動 (1月21日)◆◇◆
第3回ミュオン(古墳)測定器の組み上げ活動が1月21日に行われました。東海村歴史と未来の交流館に集まった17名の児童生徒が、皆さん楽しそうに測定器を組み上げていました。
構造体を組み立てる中学生・高校生チームと、シンチレータを固定する台を作る小学生チームに分かれて作業を進めました。構造体のフレームは出来上がり、そこにシンチレータを設置できました。モジュールとシンチレータをケーブルで接続することはまだ完了しておりません。次回も、測定器の組み上げ作業は続きます。
組み上げ作業の様子 |
フレームにシンチレータが設置されました |
茨城大学・KEKデー 量子ビーム活用した遺跡の探査の可能性にワクワク【茨城大学 site】
https://www.ibaraki.ac.jp/news/2024/01/10012229.html
令和6年能登半島地震にて亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りするとともに、被災された皆様にお見舞い申し上げます。被災地の一刻も早い復興を願っています。
昨年は、5月8日新型コロナウイルス感染症の第5類移行により3年ぶりに行動制限がなくなり、私達J-PARCでも、引続き適切な感染症対策をとりながら、研究活動や研究会、広報活動などを進めることができました。皆様のご協力にお礼申し上げます。
4月と6月には、KEK所掌の施設で火災が発生しました。幸い、人身の事故には至リませんでしたが、地域の皆様を始め多くの皆様にご迷惑、ご心配をおかけしました。原因究明、再発防止策、安全確認ののち運転を再開しましたが、ビームタイムに大きな影響が出てしまい、ユーザーの皆様には多大なご不便、ご迷惑をおかけしました。この場を借りて改めてお詫び申し上げます。
一方、RCS/MLFは4月から840kWで、95%以上という非常に高い運転効率でビームを供給し、MLFの実験では様々な成果を上げることができました。2024年もビーム強度の増強と安定運転を実現し、さらに多くの成果を目指したいと思います。MRは、長年取り組んできたアップグレードにより2023年末には、ニュートリノ施設へのビーム強度が510kWから710kWへ大幅増強に成功しました。今後さらなる大強度化への見通しが得られ、ニュートリノ研究の更なる進展が期待されます。
J-PARCの使命は、素粒子・原子核物理、物質・生命科学などの幅広い分野の研究を発展させ、宇宙・物質・生命の起源や多様性にまつわる謎に迫り、人類のQuality of Lifeの向上に貢献することです。その基礎となる、何より重要な安全管理をより一層向上させる努力を続けます。J-PARCの発展は、地域の皆様のご理解や世界中のユーザーの皆様、J-PARCに関わるすべての皆様のご理解、ご協力により成り立っています。感謝申し上げます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
令和6年1月吉日
J-PARCセンター長
小林 隆
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